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幾多の災害での経験を糧に、米中貿易摩擦の影響をうまく回避する日本企業がある。生産コストを追求して立地を決めるのではない。工場を分散してリスクに備える。柔軟に対応できるよう長期の視点で手を打つ企業は分断時代を生き残る。

 2019年9月1日。リコーの生産本部長を務める西宮一雄常務執行役員は節目の日を落ち着いた表情で迎えた。トランプ米政権が対中制裁関税第4弾の前半として、中国からの輸入品3000品目超に15%の追加関税を課した日だ。リコーの主力製品であるオフィス用複合機も追加関税の対象になった。

 リコーは中国で生産していた米国向け製品を7月にタイに移管済み。トランプ政権が5月に第4弾を発表してからわずか2カ月の早業だった。工場で新たに製品の生産を始める際の準備には通常、6カ月から1年程度かかる。西宮氏は「別の拠点に移管しやすい体制を整えていたことで即座に対応できた」と胸を張る。

タイ洪水の教訓生かす

中国とタイの並行生産で制裁関税回避
●リコーのカラー複合機の調達・生産体制
中国に集中させていた高速機種の生産を始めたタイ・ラヨーン県の工場

 米国で販売するカラー複合機の大半はタイ・ラヨーン県の工場で生産していた。ところが、中国・深圳市の工場で集中的に生産していた高速機種も米国に輸出しており、制裁関税の対象になってしまう。米国で販売しているカラー複合機のおよそ10%ほどだが、制裁関税を負担して利益を減らすのは避けたいし、他社との競争を考えると販売価格への転嫁も難しい。

 西宮氏は制裁関税が発表されるとただちに生産移管を決めた。輸出の許認可を得るのに必要な2カ月を移行期間と見込み、想定通り7月にはタイで米国向け高速機種の生産を始めた。リコーの調達・生産体制の原則としてきた「並行生産」が奏功したという。

 「タイの大規模洪水で、1カ所に集中させることのリスクを思い知った」。西宮氏は8年前の経験を振り返る。

 タイの洪水発生後、樹脂や板金といった現地で調達する部品が徐々に手に入りにくくなっていった。部品メーカーに中国やフィリピンの工場で代替生産してもらう手配を進めて生産の早期再開を目指した。

 ところが、電装部品の中にタイの工場からしか供給できない取引先があることが判明した。工場が復旧せず、その部品を使うプリンターの生産も滞った。リコーはこのプリンターをタイの工場でしか生産しておらず、部品調達先を新たに探さねばならなかった。完成品にしろ部品にしろ、1カ所からしか供給できなければ立ち行かなくなると痛感したという。