選ばれる理由は「比較優位」

製造業が進出しやすい環境が整っている
●ベトナムの強みと弱み
<span class="textColMaroon">製造業が進出しやすい環境が整っている<br /><small>●ベトナムの強みと弱み</small></span>
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 「中国と比べれば、ここは天国です」。複合機部品を製造する東英産業(京都府)のベトナム拠点、TOEIベトナムの大目彰良ゼネラルディレクター代理は話す。東英産業は中国広東省にも拠点を持つが、納入先がベトナムでの生産を増やしたため、14年に住友商事が運営するハノイ近郊のタンロン工業団地に工場を構えた。

 この拠点で東英産業は、中国向け部品の生産工程も一部手掛けている。人手のかかる前工程をベトナムが担当し、半製品を中国に輸出。後工程を経て中国国内にある大手複合機メーカーの組み立て工場に出荷している。基幹部品は日本から輸入するため、サプライチェーンは日本、ベトナム、中国にまたがり複雑化した。それでも中国で一貫して部品を生産するよりコストを抑えられる。中国ではコストに見合った形での雇用が難しくなっているためだ。

 06年から4年間、中国に赴任した経験を持つ大目氏は、「当時から従業員を集めるのに苦労していた」と振り返る。賃金の上昇に加え、「そもそも1990年前後に生まれた若い世代が単純労働を嫌い、工場勤務を忌避するようになった」。内陸部の都市化により、出稼ぎ労働者にも期待できなくなった。

 一方、ベトナムは低コストで従業員を雇える。ジェトロによると工場に勤める一般従業員の平均賃金は月額220ドルと中国の4割の水準で、タイやインドネシアよりも低い。1億人近い人口の6割以上は農村部に住み、出稼ぎに来る若者を当てにできる。「中国に比べ不明確な事業ルールに右往左往しないで済むことも魅力」と大目氏は話す。

 もっとも、賃金だけに注目すれば、ミャンマーやカンボジアがベトナムを下回る。人口ではインドネシアやフィリピンがベトナムを上回る。

 ただ、ベトナムは優位な要素が比較的多い。「製造業にとってベトナムは飛び抜けて条件がいい国とは言えないかもしれないが、欠点は少ない。『ベトナムしか進出に適した国がない』というのが実情ではないか」。第三タンロン工業団地の和智聡副社長はこう分析する。

 その強みを生かそうと動くのはアジアの企業にとどまらない。ベアリング世界大手の独シェフラーは昨年5月、アマタ運営の工業団地に2万5000m2の工場を稼働させた。ASEAN域内にとどまらず、世界全域をカバーする輸出拠点となる見通しだ。中国各地にも工場を構えているが、「輸出のハブとなる場所として最適なのはベトナムだった」と同社のシニアコンサルタントのヘルムート・ボーダ氏は語る。

 ベトナムの課題は携帯電話向け電子部品などを除き、産業の集積が途上にあることだ。シェフラーのハートゥ・ホー・カントリーマネジャーは「生産に必要な素材の多くは中国を中心に調達している」と明かす。

 素材や部品の現地調達の問題は日本企業も抱えている。ジェトロの調査によれば、ベトナムの原材料・部品の現地調達率は36.3%にとどまり、中国(66.3%)、タイ(57.2%)を大きく下回る。「1~2%ほどしか調達できていない」と打ち明ける企業もある。

 経済産業研究所の統計によれば2017年の中国(香港を含む)からベトナムへの輸出の約7割は中間財だった。シェフラーのように中国から素材や部品を輸入し、完成品にして世界に輸出するサプライチェーンができている。

 ベトナムが今以上に飛躍する可能性はあるのだろうか。専修大学の池部亮准教授は「ベトナムは中国のような存在になるのは難しい」と指摘する。理由は大きく2つあるという。

 中国が製造業の拠点として存在感を高めた背景に租税回避地としての香港の存在があった。香港に法人を設立し、中国の工場で委託生産をすれば、関税をはじめ様々な税金の免除を受けられるだけでなく固定資産を抱えるリスクも回避できた。意図して作られたものではないが、結果的に中国に重層的なサプライチェーンを生じさせた。ベトナムにはこうした基盤がない。

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