19年1月に新設した平屋建てのレンタル工場は3カ月で床が埋まった。増え続ける需要に対応するため、昨年末に完成させた6階建てのレンタル工場も既に7割以上で入居が決まっているという。

 このレンタル工場に入居したある中国企業は上海近郊に新工場を完成させたばかりだった。ヒエウ部長によれば、米国による制裁関税の影響で採算の見込みが立たなくなり、泣く泣く新工場を放置してベトナムに来たという。

 ホーチミンへ拠点を移転したり、既存工場を拡張したりする動きが相次いでいることから工業団地の入居費用は上昇している。1m2当たりの土地とインフラの利用料は18年に140ドルで、10年ほど前と比べ20ドル上がっていたが、この2年間の上昇幅は35ドルで、今年は175ドルになった。

 それでも引き合いは強まるばかりだ。ロンハウ工業団地はレンタル工場とは別に更地の団地区画も新たに造成している。従来区画は完売まで10年ほどかかったが、「新しい区画は3年あれば埋まるだろう」とヒエウ部長は見る。ホーチミンの工業団地は飽和状態にあり、企業が入居先を探しても容易には見つからない状況になっていることから強気の見通しを立てている。

 北部にある首都ハノイ周辺にも中国を拠点としていた中韓台系の企業が相次ぎ進出している。ホーチミンに進出していたタイ工業団地大手のアマタ・コーポレーションはこれをにらみ、ハノイ近郊に新たな工業団地を開発している。アマタのベトナム法人で営業と販売を統括する須藤治氏は「米国による制裁関税のニュースが出るたびに問い合わせが増えている。日系も含め新団地で受け入れたい」と話す。

 米中貿易戦争が激化した18年から19年にかけて、数多くの企業が中国からベトナムへ生産拠点を移したり、移転を検討したりしている。中国勢ではパソコンのレノボ・グループや家電のTCL集団、台湾勢では電機の東元電機(TECO)や電子血圧計の合世生医科技(ヘルス&ライフ)など電子機器大手が拠点を新設する動きが目立つ。既存工場での増産も相次ぎ、ベトナムの19年の輸出額は約2461億ドルと前年比8.4%増え、過去最高を記録した。

ベトナムは賃金が安く、外資製造業が有望視している
●日系企業が進出する主な新興国の経済状況の比較
<span class="textColMaroon">ベトナムは賃金が安く、外資製造業が有望視している<br /><small>●日系企業が進出する主な新興国の経済状況の比較</small></span>
注:人口と1人当たりGDP、成長率は2018年。ミャンマー、カンボジア、ベトナム、フィリピンの1人当たりGDPと人口はIMF推定。中国の平均賃金は香港を除く
出所:IMF、ジェトロ
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 ベトナムは今、ASEANの中で外資が最も注目する国になっている。米中摩擦により、タイやシンガポール、マレーシアは、中国との間に構築されていたサプライチェーンが機能不全に陥って輸出が落ち込んだ。「なぜあの国が代替拠点として評価されるのか」。タイ政府高官から恨み節も漏れる。

 輸出加工拠点としてベトナムに早くから注目したのは「チャイナ・プラスワン」を迫られた日本勢だった。日越は04年に投資協定を結んでいる。中国広東省に生産拠点を構える音響機器メーカー、フォスター電機は06年から10年にかけて、北部のハノイ、中部のダナン、南部のホーチミンと各都市近郊に生産拠点を築いていった。フィリピンも進出先として検討したが、「中国と陸続きでアジアの結節点であるベトナムが物流などで有利と判断した」(吉澤博三社長)という。

 ベトナムは07年にWTO(世界貿易機関)に加盟している。その後、「日本企業よりも遅れて東南アジアにサプライチェーンを構築し始めた韓国勢が進出した」(政策研究大学院大学の篠田邦彦教授)。サムスン電子はベトナム北部に09年、携帯電話を組み立てるグローバル基幹工場を稼働させた。

 日系企業も一貫して進出を続けており、ジェトロのデータによると、13年ごろからそのペースが速くなっている。中国に加え、タイなど他のASEAN諸国で人件費の上昇が進んだことが背景にあるとみられる。

ASEAN域内では後発国だったが、2000年代半ば以降、輸出拠点としての存在感が急速に高まった
●ベトナムの輸出額と外国企業による直接投資の推移
<span class="textColMaroon">ASEAN域内では後発国だったが、2000年代半ば以降、輸出拠点としての存在感が急速に高まった<br /><small>●ベトナムの輸出額と外国企業による直接投資の推移</small></span>
注:2019年の直接投資の実行額は12月20日までの数値
出所:ベトナム統計総局、同計画投資省、同税関総局
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