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人材を囲い込んできた日本の大企業が悩み始めている。新卒採用の人気が低下し、能力ある人材は会社を去る。「大企業」であることにあぐらをかいていては、もはや死を招くばかりだ。

みずほフィナンシャルグループは、メガバンクで初めて、社員の副業を認めた(写真=上:陶山 勉、左下:ViewStock/Getty Images)

 「外で働くことを認めてしまっては、最後は他の会社へ行ってしまうのではないか」「今まで大事に育てた社員を野放しにするも同然ではないか」──。

 昨年10月、みずほフィナンシャルグループ(FG)は、社員の兼業・副業をメガバンクとして初めて解禁することを決めた。その過程で交わされたのはこんな激論だった。問われたのは、単なる働き方の問題ではない。働く個人と会社との関係だった。

 産業界で副業解禁の動きが広がる中、銀行業界はそこから遠くにあるとみられていた。取引先の機密情報を数多く取り扱うため、セキュリティーや情報管理面でのハードルが高い。複数の企業と雇用契約を結んだ場合、従業員の労務管理がしづらくなるデメリットもある。さらには前例を重視する保守的なカルチャーも副業に消極的な背景だった。実際、メガバンクでは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)も三井住友フィナンシャルグループも副業を認めていない。

 では、なぜみずほは決断したのか。

 一つは同社固有の事情だ。日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行の3行が統合したみずほは、社内融和に時間がかかり、MUFGや三井住友FGに比べ経営改革が遅れたと指摘されている。システム統合に関しても「3行対等の精神」を重んじるあまりに後手に回った。昨年3月にも傘下銀行の勘定系システムを一本化するために投じた新システム投資費用や店舗統廃合にかかる固定資産関連での減損が響き、6800億円の損失を出している。

 3メガの3番手が定位置となったみずほは、2017年には、10年かけて1万9000人の人員削減に踏み出す方針を構造改革の一環で打ち出しており、会社が一生、社員の面倒を見るという前提が崩れた。だが、もっと大きいのは、会社に対する個人の意識が大きく変化していることだ。

 「これまでの会社は、社員の生活や人生の大部分を支える存在だった。でも今は違う」。みずほで新人事制度作成に関わった、グローバル人事業務部の日置健太氏はこう話す。

 終身雇用、年功序列の前提が崩れ、個人の会社に対する意識は大きく変わっている。自分の働きに報いてくれるかどうかは大切だが、一方で自分のやりたい仕事、成長の機会やスキルを与えてくれるか否か、といった新たな要素が重視されるようになった。特定の会社の中でのみ通用するスキルを磨き、内部で昇進を目指すよりも、外でも通用する能力を身に付けたほうが会社の枠にとらわれず活躍できるチャンスがあると考えるように変わっている。

日経ビジネス2020年2月10日号 32~37ページより