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課題先進国といわれる日本。少子高齢化はその象徴にすぎず、「ひずみ」は至る所にある。1次産業、医療、そして宇宙……。「当たり前」として見過ごしてきた課題が残されている。新たなアイデアで挑む課題解決型のビジネスモデルは、世界に羽ばたく可能性も秘める。

鳥取県の網代港で新たに買参権を獲得したウーオの板倉一智CEO(左下写真中央)。漁師が送る漁獲の写真を基に、全国のバイヤーと取引する(写真=網代港:PIXTA)

 鳥取駅からクルマを走らせて30分ほどののどかな港町、網代。その漁港で2019年9月、早朝の競りに新たな参加者が加わった。16年に創業したウーオ(広島市)だ。買参権を取得したのは、同じく鳥取県の賀露港(賀露町)に続いて2件目。IT(情報技術)を活用して水産物をより高く評価するバイヤーに売り、地元の漁師たちの収益性を改善する。

 一般的な水産物は、水揚げされた漁港で現地の仲買が買い付け、東京などの都市を中心に全国の消費地へと送られる。そこで現地の卸売り業者が仲卸に売り、地場のスーパーなどに流通していく。多くの中間業者が手数料を取るため、消費者が買う価格は「一般的に浜値の2.5倍程度になる」(ウーオの板倉一智CEO)。

 消費者には割高となる一方、漁師など漁業就業者の手取りは少なく、「生活が苦しい」として慢性的な後継者不足に悩まされてきた。このひずみを、ウーオは解消しようとしている。

 スマートフォンを活用して、生産者である漁師とバイヤーをつなぐプラットフォームを構築。漁師は船上からその日の漁獲を写真付きでウーオに送る。ウーオのサービスに登録するバイヤーは、おおよその販売価格帯を見ながら求める魚種と価格、購入量を競り前に入力すれば、ウーオの担当者が競り落として全国に発送する。

 地元の仲買業者はそれぞれ規模が小さく、取引先も限られるため言い値で買いたたかれることも少なくなかった。ウーオは複数のバイヤーを抱えることで競争が生まれやすい環境を作った。

 板倉CEOは、「漁師ファースト」の視点に立ち、良い条件を示すバイヤーに販売する道を開いて浜値を上げることが、漁業が今後も生き残る道だと考える。20年には改正卸売市場法が施行され、卸売業者の取引の自由度が増すなど規制緩和が進み、ウーオには追い風が吹く。硬直的だった海産物の取引に風穴が開く可能性がある。

 ウーオのケースは「変わらない」「変えられない」と多くの人が諦めていた状況に、技術とアイデアを組み合わせた新たなビジネスモデルで光が当たり始めたことを示す好例だ。こうした手つかずのひずみが解消される兆しは、日本の至る所で見られるようになった。

 19年9月にビニールハウス野菜用の自動収穫ロボットの事業化にこぎ着けた、神奈川県鎌倉市に本社を置くinaho(イナホ)の取り組みもその一つ。野菜は米や大豆といった一斉に収穫を迎える穀物とは異なり、生育具合に差が出て出荷の可否を人が見極めてその都度収穫することが多い。毎日畑をじっくりと見て回り、腰をかがめて収穫するのは農家にとって負担が大きい。

 イナホが開発した自動収穫ロボットは自走式で、カメラが野菜を映し出して出荷可能なものかを判断し、収穫まで自動でする。試験導入した佐賀県でアスパラガスを生産・販売する農家の安東浩太郎さんは「身体的な負担が減り、空いた時間を新たな販路開拓に充てることができた」と喜ぶ。

 ビジネスモデルは、ロボットを農家に貸し出し、収穫高の15%をイナホが代金として受け取るというもの。大規模農家が少なく、収穫を人手に頼る場合が多い日本の野菜農家ならではの課題の解消につながるかもしれない。イナホの菱木豊CEOは「広さ4反(約4000m2)のハウスで作業員は4人必要だったが、1人に減らせる。人手不足で増やせなかった栽培面積を増やすことも可能。農家の所得を倍増するプラットフォームにしたい」と野望を語る。

日経ビジネス2020年1月13日号 44~47ページより