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ブロックチェーンやAIなど、国家運営にも最新テクノロジーが欠かせなくなってきた。中国のみならず、カナダやデンマークなど戦略的な「テック型」国家も出始めている。技術革新を誰がどうリードするか。それがGAFA後の時代の覇者を決める。

(写真=Chesnot/Getty Images、代表撮影:ロイター/アフロ)

 中国人民銀行は、世界初のデジタル通貨を発行する中央銀行となるだろう」──。

 中国政府系シンクタンク、中国国際経済交流センターの黄奇帆副理事長は2019年10月、講演でこう語った。その実現が秒読み段階に入っている。

 経済誌「財経」によれば、深圳と蘇州がデジタル人民元の試験区になる可能性が高く、四大国有銀行や中国3大通信キャリアが参画する見込みという。

 中国メディアや識者の発言を総合すると、デジタル人民元は現在の通貨と同じ流通経路とすることが想定されているようだ。人民銀行がまず金融機関に対してデジタル人民元を発行。それを個人や企業が受け取るという2階建ての構造だ。

 19年11月26日、中国人民銀行の周小川・前総裁はデジタル人民元構想について「中国が思い描いているのは、デジタル決済を開発して国内の小売りシステムにおいてその利用を発展させることだ」と説明している。

スマホによる決済が爆発的に拡大
●中国モバイル決済市場規模推移
出所:艾媒咨詢

 もっとも、中国の多くの消費者は、すでに騰訊控股(テンセント)の「ウィーチャットペイ」やアリババ集団の「アリペイ」といった電子決済を利用している。こうした民間業者の決済は基本的に中国の銀行口座と接続しなければならず、かつインターネットにつながっていることが利用の前提だ。

 デジタル人民元は通常の紙幣や貨幣と同様に、オフラインでの受け渡しが可能になるとされる点が既存の決済システムとは異なるが、ウィーチャットペイなどでもオンラインでの送金は可能。すでに多くの人がデジタル決済の恩恵を受けている状態であり、利便性向上は期待しにくい。

 むしろデジタル通貨の真の目的は、周氏があえて強調しなかった分野にあるとみられる。国境を超えた決済だ。

 これはアジアからアフリカまでを視野に入れた「一帯一路」政策と密接に絡んでくる。デジタル通貨で人民元そのものの利便性を高めれば、自国通貨の信用度が低い新興国を中心に人民元を利用する国や企業が出てくるかもしれない。

 現在、世界の国際決済で使用される通貨は米ドルが約40%を占めるのに対し、人民元はわずか2%。デジタル通貨は使用履歴の追跡が紙幣や貨幣よりも容易なため、中国政府は人民元のシェアが上がれば国際的な資金の流れを把握しやすくなる。

日経ビジネス2020年1月6日号 38~43ページより