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八郷ホンダが目指すのが、乗り物だけでなく充電などのインフラまで担う姿だ。電動化が進めば、二輪や四輪、電池や充電器まで幅広い製品を持つ強みが生きてくる。空間と製品、エネルギーの「すり合わせ」で移動の価値を再発明しようとしている。

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 インドネシア、ジャワ島西部のバンドン。ATMのようなブースの前に止まったホンダの電動バイク「PCX」の座席下からドライバーが黒い塊を引き抜くと、ブースから取り出した同じ形状の物体と取り換えて装着した──。

再生エネ活用し分散型電源にも
●ホンダが手掛ける充電インフラのイメージ
交換式バッテリーを使った実証実験の場(インドネシアのバンドン)

 コンビニの前など30カ所に設置されたブースの正体は充電ステーションだ。といっても電動バイクを充電する設備ではなく、充電済みの着脱式バッテリーを供給する。使用可能なバッテリーがあるかはスマートフォンで確認できる。ホンダがパナソニックと共同で実証実験を始めたシステムは、これからホンダが目指す企業像の第一歩ともいえるものだ。

再生エネの余剰電力活用

 航続距離が最長でも50kmほどの電動バイクでは、充電にかかる時間の短さ、加えてすぐに交換できるバッテリーの存在は普及に欠かせない。「街中に交換可能なバッテリーがあれば、電動バイクだけでなくEV(電気自動車)の普及につながる」(ホンダ幹部)

 充電ステーションは系統電源のほか太陽光発電などに接続可能で、ムラが大きくなりがちな再生可能エネルギーを有効活用する役割も果たす。風力発電の余剰電力を活用する実験が進むフィリピンのロンブロン島では、これまで船で運ばれてくる燃料によるディーゼル発電機しかなかった。

 ホンダが世界シェア3割を握る二輪車の主要市場は東南アジアやインド。「インドネシア政府は電動化で国産勢を育てたい。電動化と相性のいい都市部なら対抗できる」。インドネシアのアストラホンダモーターの井沼俊之社長は話す。

 電動化が進む二輪や四輪に加え、ホンダは発電機や船外機、交換式バッテリーやその充電ステーションなど幅広い製品を持つ。その販売台数は合計して年間約3200万台。顧客の数ならトヨタ自動車にも負けない。

 八郷隆弘社長は7月、ホンダの新たな将来像として、それらをつなげて社会インフラとして提供する「eMaaS(イーマース)」構想を打ち出した。「エネルギー・アズ・ア・サービス(EaaS)」と「モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)」を組み合わせた造語だ。

 英国生産から撤退する欧州でも、スウェーデンのエネルギー大手と10月に提携。料金の安い夜間に電力をEVにためるなど、2020年に発売する初の量産EV「ホンダ e」の充電コストの引き下げを狙う。ほかのメーカーのEVにもインフラを開放する考えだ。

 これまでホンダは二輪やクルマの構造などで画期的な世界観をつくってきた。庶民の足となった「カブ」や小型車「フィット」など、限られた空間を有効に使い新たな生活を提案した。イーマースはその概念を町全体に広げた。

 モノとモノでなく、エネルギーと製品、空間を「すり合わせる」とはいえ、「全方位を独自でやるのは現実的ではない」(イーマースなどサービス分野を担当する伊藤裕直本田技術研究所常務)とし、エネルギー会社などとの関係を強化していく方針だ。

日経ビジネス2019年12月2日号 36~39ページより