
中小企業の数を今の半分以下にせよ──。そんな日本再生論が話題を呼んでいる。市場成熟や後継者難を背景に大幅な淘汰が避けられない日本の中小企業。当の経営者からも「自分たちは必要ない」との自虐が聞こえる。


「世間の皆様に不信感を与えてしまい、誠に申し訳ございませんでした。あらためて納税に対する意識、仕事のこと、自分自身のこと、しっかりと見つめ直していきたいと思っております」
10月下旬、人気お笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実氏が設立した会社「チューリップ」が、東京国税局の税務調査を受けて2018年までの7年間、約1億2000万円に及ぶ税金を申告していなかった事実が発覚した。吉本興業やテレビ各局は、問題発覚直後こそ徳井氏をかばおうとするかのような対応を見せていたが、世論の反発を重く見てか、厳しい姿勢に転換。徳井氏はその後、芸能活動を自粛し、出演番組の差し替えなどが続いている。
手法は極めて伝統的だが……

徳井氏は、所属する吉本興業から支払われる「ギャラ」などをチューリップにいったん受け取らせ、同社から役員報酬の形で収入を得ていた。個人でなく法人で収入を受け取るのは、その方が様々な税制上のメリットがあるためで、それ自体は「極めて伝統的な手法」(国税庁OB)とされる。
ただ徳井氏の場合、こうした「法人成り」(自営業者の法人化)による節税メリットを享受するという次元ではなく、09年の設立以来、期限内に税金の申告そのものをしていなかったという。
まずチューリップは09~11年度、期限内に確定申告せず、税務署からの指摘で12年6月に3年分を申告し納付。12~14年度も無申告を繰り返し、15年7月に申告するものの今度は納付をせず、16年5月ごろに銀行口座を差し押さえられた。さらに15年以降も同様に無申告だったため、遡って12年度からの7年分の申告漏れを指摘される事態になったという。重加算税などを含めた追徴税額は約3700万円に達する。
徳井氏は謝罪会見で、「税理士から納税をするよう言われていたが先延ばしを続けていた。自分がどうしようもなくルーズだった」と悪意のなさを強調した。ところが、個人的な旅行代や洋服代など2000万円を会社の経費として計上したが認められず、しかも「所得隠し」に当たると判断されたことが分かると、「本当にルーズなら、領収書を管理し経費計上しようとするだろうか」などの声が当の芸能界からも噴出。結局、今年6月に発覚した「闇営業問題」と同様の騒ぎになってしまった。
この徳井騒動。ある意味で闇営業問題にはなかった意外な広がり方を見せており、それがネット上での一段の炎上につながっている。
「徳井さんの件を機に、自営業者が節税のために法人を設立すること自体が悪いことのように言われ始めている」。“自営業者たたき”への飛び火を指摘するのは、中小企業の経営や税務に詳しい渡邉朝生税理士だ。
渡邉氏は「徳井さんが税金を納めていなかったことは論外」と前置きした上で、「個人が会社を設立する目的は節税だけではなく、事業拡大や信用力向上など様々な目的がある」と話す。
「収入をいったん法人に受け取らせ、そのうえで給与額を決めて個人に無税で還流する」「法人税率と所得税率の差を利用して税額を減らす」「生活費を法人の経費に振り替え、法人は赤字にする」……。様々な節税メリットが指摘されている法人成り。「だが現実には必ずしも節税になるわけではないし、芸能人のほか、サラリーマンでも会社を立ち上げている人はたくさんいる」と渡邉氏は強調する。
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