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スマートフォンや薄型テレビなどサムスンの主力事業で足元の戦略に異変が生じ始めた。中国メーカーが高機能、低コストで追っており、これまでと同じやり方では太刀打ちできない。ものづくりの拘(こだわ)りを捨てて外部委託を進める姿はかつての日本企業とも重なる。

韓国サムスン電子が今夏、アジアや北米などで発売した普及価格帯のスマートフォン「ギャラクシーA10s」。スマホの設計から製造までを本格的に外部に委託した機種の一つだ(バンコク市内のマーブンクロンセンター)(写真=4点:飯山 辰之介)

 タイの首都、バンコク市内にあるショッピングセンター「マーブンクロンセンター」。その4階には、正規代理店から個人商店まで多数のスマートフォン販売店が軒を連ねる。今年8月、モバイル業界の関係者が売れ行きを注視する“ある機種”が発売された。

 「ギャラクシーA10s」。韓国サムスン電子がアジアや北米などで展開する普及価格帯のスマホだ。約6.2インチの液晶パネル、2個の背面カメラ、2ギガバイトのメモリー、32ギガバイトのストレージを搭載。4000バーツ前後(約1万4000円)とサムスンの機種の中では廉価で売られている。

 この機種が注目を集めるのは、サムスンのスマホ戦略の今後を占うとみられるからだ。 

 サムスンは、世界のスマホ市場での台数シェアが約2割の首位。しかし、ここにきて、華為技術(ファーウェイ)や小米(シャオミ)、vivo(ビボ)、OPPO(オッポ)など中国勢から追い上げを受けている。

 既に中国市場ではサムスンが苦戦を強いられている。2013年に約2割を占めたサムスンの中国でのシェアは、中韓関係の悪化による韓国製品の不買運動もあり、直近では「1%未満」(通信業界の関係者)にまで落ちた。vivoやOPPOなどの中国勢は、さらなる事業拡大へ東南アジア市場で攻勢を強めている。サムスンが今後もスマホで世界首位を維持するには、普及機で中国勢に勝たなくてはいけない。

 A10sが注目を集めたのは、価格面で中国勢に対抗するだけでなく、「ODM」形態と呼ぶメーカーへの委託拡大に踏み切った代表的な機種とみられているためだ。サムスンはこれまでもスマホの一部機種をODMに委託してきた。関係者によると19年春以降、その動きが加速している。世界最大のスマホODMである中国ウィングテックへの委託を増やしており、A10sはその中でも発注量が多いもようだ。

 ODMは相手先ブランドで商品の設計から調達、製造などを担う企業。相手先ブランドでの生産のみを手掛ける「OEM」と比べ、委託先への「丸投げ」要素が大きい。パソコンなどデジタル機器のコストダウン策として一般的に活用されている。

日経ビジネス2019年11月11日号 34~37ページより