「チャイノベーション」の広がりは、IT(情報技術)分野にとどまらない。部品や素材など日本企業が得意な領域にも、その波は押し寄せつつある。その時、日本に残る産業はあるのか。企業だけでなく国としての戦略が問われる。

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 「競合他社との比較はできない。我々の3Dプリンターなら、これまで作れなかった部品が作れるのだから」

<span class="fontBold">賀暁寧CEOは清華大学を卒業後、米ペンシルベニア州立大学で学び、2016年にBMFを設立した</span>
賀暁寧CEOは清華大学を卒業後、米ペンシルベニア州立大学で学び、2016年にBMFを設立した

 広東省深圳市の3Dプリンターメーカー、摩方材料科技(BMF)の賀暁寧CEO(最高経営責任者)は、こう豪語した。2016年5月創業の深圳市にある3Dプリンター企業と聞けば、荒削りだがスピード感が売りのスタートアップ企業を想像するかもしれない。だが、BMFの売りは「世界唯一」と宣言する、その精度にある。

 同社の3Dプリンターは紫外線を照射して液体樹脂を固めていく「光造形型」と呼ばれるタイプの製品だ。同社製品は2マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの積層間隔で複雑な超小型部品を製造できる。一般的な光造形3Dプリンターの積層間隔は50マイクロメートル程度だから、文字通り桁違いの能力だ。

 マイクロメートル単位で超精密加工を施す部品は、日本が長年培ってきたお家芸と言っていい。職人技による高い精度を武器に、世界的な大企業と取引する中小企業も多い。一方、製造業の在り方を変えるといわれてきた3Dプリンターだが、精度の面で従来の製法にかなわないのが弱点だった。

 だが、精度が桁違いに上がれば話は変わってくる。しかも、切削加工や金型によるプレス加工では内部を中空にしたり、マイクロメートル単位の網目状にしたりといったニーズに対応するのは容易ではなかった。また、生産量がそれほど見込めない部品では金型を作るコストも高くつく。

 3Dプリンターの精度を高めれば、複雑な形状が要求される小型部品を量産できる。BMFは半導体製造装置に用いられるリソグラフィー技術を用いて紫外線の照射位置を高精度で制御すると同時に、樹脂素材の最適配合を研究することで、高精度な造形を可能にしたという。

<span class="fontBold">BMFの技術を用いた樹脂製の緑内障用治療器具は北京同仁病院と共同で開発した</span>
BMFの技術を用いた樹脂製の緑内障用治療器具は北京同仁病院と共同で開発した

 可能性を示す活用事例の一つが、北京同仁病院の専門チームと共同開発した緑内障用の治療器具だ。緑内障は眼圧が高まることによって引き起こされる。そのため、眼球内部の水を排出する直径50マイクロメートルのストローのような構造を持つ2.64mmの治療器具を目の中に留置する治療方法が選択肢の一つとなっている。ただ従来の治療器具はステンレス製で、微妙な眼圧の変化に対応できないといった課題があった。

 同社の3Dプリンター技術を使えば、金属よりも安価な樹脂素材を利用できる。さらに、中空部分にバネ状の部品を形成することで、眼圧変化にも対応できるようになったという。「緑内障患者は世界に7000万人近くいる。多くの人に役立ててもらえる可能性がある」(賀CEO)

 既に米GEヘルスケアや米ジョンソン・エンド・ジョンソンが同社の3Dプリンターを使用している。もちろん応用範囲は医療分野だけではない。

 スマートフォンなどの電子・通信機器の部品や、歯車やバルブといった機械部品、自動車や光学機器の部品などに応用すれば、単に部品の製造方法が変わるにとどまらず、企業のサプライチェーンを根本的に変えてしまう可能性を秘める。実際、日本の自動車部品メーカーとも商談が進んでいるという。

 創業者の賀氏は中国理系大学の最高峰である清華大学を卒業した後、ペンシルベニア州立大学で電気工学の修士号と博士号を取得。米マサチューセッツ工科大学(MIT)で3Dナノ生産技術を専門とする方絢莱教授らと共にBMFを創業した。

 現在は3Dプリンターそのものを販売しているが、今後は同社の3Dプリンターを活用した部品の開発・販売事業に打って出る。部品の開発・製造事業が軌道に乗り、規模が拡大すれば、精密加工を武器とする日本企業と直接、競合する。

 BMFの日本法人には今年、著名経営者が加わった。カルビーCEOやRIZAPグループCOO(最高執行責任者)を務めた松本晃氏だ。同氏は「新しいものにチャレンジする中国企業の姿勢に魅力を感じる」と話す。BMFは日本企業が得意とする「高精度」を武器に、日本市場でも事業拡大を狙っている。

続きを読む 2/4 「日本発」の技術にも触手

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この記事はシリーズ「中国が世界を染める チャイノベーション vol.2」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。