
中国が世界規模で5Gネットワークや海底ケーブル、測位衛星システムの整備を進めている。それはまるで官民が一体となって、新たな「中華圏」を作ろうとしているかのようだ。技術力を背景にした中国の勢力拡大の現実から、米国が焦りを隠せない理由が見えてくる。
青い地球が、中国を象徴する赤色に染まりつつある。
中国はGDP(国内総生産)で2030年代半ばにも米国を抜き、世界一になるといわれている。だが、世界を見渡せば、中国のIT(情報技術)インフラは既に至る所に広がっている。中国発の技術革新「チャイノベーション」が拡大している現実を知れば、世界唯一の超大国を自任する米国の焦りの理由が見えてくる。
11月4日午後6時、見晴らしのよい東京都心の皇居周辺で夜空を見上げたとしよう。肉眼では見づらいが、都心の空を各国の測位衛星が覆っている。米受信機大手トリンブルの衛星情報サービスによれば、日本の測位衛星システム「みちびき」は4基、欧州連合(EU)の「Galileo」は5基、ロシアの「GLO-NASS」は6基が飛行している。
測位衛星システムの元祖といえる米国の「GPS(全地球測位システム)」は、日欧ロシアを上回る9基が上空に確認できた。しかしこの時、GPSの2倍の数の衛星で東京の夜空を占めるシステムがあった。中国の「北斗」だ。その数は19基に上った。

中国は2018年以降に新たに21基を打ち上げ、現在はGPSの31基を超える34基体制で北斗を運用している。20年までにさらに7基を追加する予定だ。
一般的に上空を飛ぶ衛星の数が多いほど、測位の精度は高まる。中国の猛追を受け、米議会の諮問機関は4月、「北斗は外交戦や地政学上の競争を有利に進めるための手段だ」と警鐘を鳴らす報告書を公表した。
測位衛星はカーナビシステムやスマートフォンの地図アプリ、船舶の航法システムなどで使用されている。今後はクルマやドローンの自動走行・飛行へ応用範囲が広がると予想されている。
測位衛星によって暮らしが便利になる一方、社会の依存度が高まれば衛星を運用する国の意向に背きづらくなる。運用国は衛星から発する信号を操ることで、特定の地域で測位結果を狂わせることができるからだ。自動運転車に事故を起こさせ、船舶を遭難させるなど、社会を混乱に陥れる力を手にすることになる。
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