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国際的に高い競争力を維持し、イノベーションを次々と生み出す北欧・スウェーデン。数々の有名企業を輩出し、欧米の世界的企業を引き寄せる理由は、優れた人材の存在だ。背景には、徹底した実学重視の教育と、何度でも学び直せる社会の仕組みがある。

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 企業競争力の低迷が指摘され続ける日本。対照的に、米国やドイツといった大国と並び、高い競争力を維持し続けている国がある。スウェーデンだ。

 IMDの2019年版の世界競争力ランキングでは日本の30位に対し9位。移民問題やブレグジットなどで欧州全体が揺れる中、人口にして日本の10分の1以下の国家が安定した地位を守り続けている。 特筆すべきは、グローバル市場で戦う数々の有力企業を輩出している点。H&Mやイケアといったファッション・デザイン分野はもちろん、エリクソン(通信機器)やボルボ(自動車)といった製造業、さらには音楽ストリーミングサービスのスポティファイ(Spotify)もスウェーデン生まれだ。

(写真=上段左:picture alliance/アフロ、同中:ロイター/アフロ、同右:AP/アフロ、同大:K’Nub/Getty Images)

 そんな高い競争力を支える要素の一つが人材力。「資源に乏しいスウェーデンでは、人材こそが国力という考えが強い」と北欧諸国に詳しい明治大学の鈴木賢志教授は説明する。同じくIMDの世界人材ランキング(18年)でも日本(29位)を上回る8位。「スウェーデンのシリコンバレー」と称されるシスタ・サイエンスシティーには米マイクロソフトや米アップルなど一流企業が集まり、優秀な人材を奪い合っている。

移民大国なのに高い「読解力」

 スウェーデンの人材の特徴は、天才や異才が多いというより、独自の教育システムの導入で「仕事をする上で最低限必要なスキル」を多くの国民が身に付けている点にある。

 PART1でも言及した成人版の学習到達度調査「PIAAC」(最新版)を見ると、例えば読解力では、「レベル1以下」の国民が総人口約1000万人のうち13.3%おり、比率は日本(4.9%)より高い。だがこれは、スウェーデンが第2次世界大戦後から続く「移民大国」だから。むしろ「外国に背景を持つ人」(外国生まれのスウェーデン在住者+両親が外国生まれの人)が国民の4分の1を占め、今も流入を続けているにもかかわらず、読解力レベルが1以下の人が13.3%しかいない、という点に同国の教育システムの強みがある。そのポイントは次の2つだ。

  1. 7~15歳の義務教育に加え、高校、大学、大学院まで無償化されている。
  2. 子供どころか大人までもが学ぶ気持ちを失わない仕組みになっている。

 「低コストの教育環境の提供」「子供の学ぶ意欲の維持」という日本がこれから取り組まねばならない課題(PART1 5ページ目参照)をともにクリアしている。一体なぜそんなことが可能なのか。

 スウェーデン流教育システムが最も力を入れるのは、徹底した実学主義だ。子供たちは幼い頃から「自分は将来どう生きていくか」を強く意識させられる。

柚井ウルリカ氏はスウェーデンの高校を卒業後、世界を旅した後に日本に定住。日本人と結婚し、現在は3人の娘を育てる

 例えば科目の「社会」では、日本のように専門用語や制度の暗記に明け暮れることはない。文字通り、社会生活を送る上で不可欠な実践的知識を学ぶ場だ。「起訴され裁判にかけられたらどうするか」「国の政策に不満があるとき、どう意思表示するか」……。そうした現実の事象を取り上げ、議論を通じて理解を深めていく。

 「小学校の時から、各政党のマニフェストを読んで討論する授業がある」と証言するのは日本在住でスウェーデン出身の柚井ウルリカ氏。資料を読み解くための読解力や論理的思考力が自然と育まれそうだ。

 9月に米国で開かれた国連の気候行動サミットで、スウェーデンの高校に通う環境活動家グレタ・トゥンベリ氏が注目を集めたが、鈴木教授によれば、彼女のような舌鋒(ぜっぽう)鋭い生徒はスウェーデンでは珍しくないという。

日経ビジネス2019年10月28日号 46~49ページより