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 PIAACやIMD調査など「日本の教育劣化」を強調したいが故に極端なデータだけを取り上げているという疑念を払拭するため、さらに確度の高いデータを紹介しよう。

 今の中高生の3分の1は、簡単な文章が読めない──。書籍『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)で、こんな見解を示したのは国立情報学研究所教授で同社会共有知研究センター長の新井紀子氏だ。新井氏は中高生の読解力について「危機的と言っていい」と警鐘を鳴らす。その根拠には、全国2万5000人を対象に実施した基礎的読解力調査がある。問題の一部を許可を得た上で下の黒板に掲載したので、まず解いてみてほしい。

(写真=Benne Ochs/Getty Images)

 [問1]は世界の宗教を読み解く問題。落ち着いて文章の区切れや構造を理解すれば簡単に正解できる問題のはずだ。

 仏教は東南アジア、東アジアに/
 キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに/
 イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアに/
 おもに広がっている/

 つまり、東南アジア、東アジアに、おもに広がっているのは「仏教」、ヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、おもに広がっているのは「キリスト教」、 北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアに、おもに広がっているのは「イスラム教」と分かる。

 だからオセアニアに広がっているのは②のキリスト教が正解。「そこまで丁寧な解説をしなくても誰でも即答できるのではないか」と思うかもしれない。が、この問題の正答率は中学生が62%、高校生が72%。この数字の怖さがお分かりいただけるだろうか。

喜べぬ「6割が正解」

 新井氏は書籍の中で「(この簡単な問題を)中学生の3人に1人以上が、高校生の10人に3人近くが正解できなかったと理解すべきだ」と主張する。参考までに、「この問題に解答した745人の高校生が通っているのは進学率ほぼ100%の進学校」だという。

 [問2]は呼び名の問題だ。問1同様、文章の構造を把握すれば、正解はたやすいように思える。

 Alexは「男性にも女性にも使われる名前」、かつ「女性の名Alexandraの愛称」、かつ「男性の名Alexanderの愛称」である。Alexandraの愛称は①のAlexが正解。問2に至っては正答率はさらに低く、中学生38%、高校生が65%だった。中学生の5人に3人、高校生の3人に1人は間違えたわけだ。選択肢④を選ぶ解答が多かったという。

 この2問はいずれも、日本語の文章の「係り受け」について、どの程度理解しているか確かめるための問題だ。係り受けとは、どれが主語でどれが述語なのか、どれが修飾語でどの言葉を修飾しているか、その関係を指す。

 同書によると、こうした「係り受け」の問題で、AI(新井氏が開発している人工知能「東ロボくん」)の正答率は8割だった。一連の事実をそのまま解釈すれば、こと係り受けの見極めに限った場合、8割の確率で今の中高生の3人に1人は「AIに負けかねない状況にある」ということになる。