
現場力の低下が原因とみられるような事件やトラブルが絶えない。さびつく現場力の原因として、人手不足を挙げる声は多い。だが、事はそう単純ではない。苦闘するニッポンの現場を歩くと、複合的な原因が見えてきた。
また、トラブルである。
10月6日夜、日本製鉄の室蘭製鉄所(北海道室蘭市)で火災が発生した。火元は製鋼工場で鋼を造る「転炉」近くの設備。約1時間後に鎮火したが、製鋼工程は約2日間、操業できなくなった。日本製鉄では子会社の日鉄日新製鋼の呉製鉄所(広島県呉市)でも、8月に火災が発生。日本製鉄のライバルであるJFEスチールでも2018年10月以降、岡山県や千葉県、広島県の高炉3基でトラブルが相次ぎ、19年3月期の減産規模は180万トンに及んだ。
鉄鋼業界で相次ぐトラブル。背景の一つには「熟練工の退職で現場力が低下していることがある」(業界関係者)。少し前までは、経験値の高い職人が事前にトラブルの芽を摘んでいたケースもあったというが、若返りでそれも難しくなっているという。
鉄鋼業界に限らない。上の年表にあるように、この10年余りを振り返っても、業種を問わず、様々な問題が噴出している。モラルの低下も指摘される。製品やサービスの品質や性能にかかわるデータを偽装することなど、一昔前なら考えられなかったはずだ。
社会インフラとして欠かせない存在になったコンビニエンスストア。各店舗では、商品の陳列、レジ打ちに加え、ネット通販市場の拡大を受けて宅配物の受け取りなど、業務内容が広がる。多様な消費者ニーズに応えることで成長を遂げてきたが、増え続ける仕事量に「現場はもう限界。接客の質を維持することすら危うい」(業界関係者)との声も漏れる。
さびつく現場力。自ら考え、課題を解決する力が落ちれば、日本が世界に誇ってきた質の高い製品やサービスも生み出せなくなる。
経営者が危機感を強める。経団連会長の中西宏明・日立製作所会長が言う。「一時期、円安になって家電の生産を中国から日本に戻そうとした。でも、できない。人が集まらないから。日本の工場では結局、半分以上が海外からの出稼ぎ。こうなると、品質をどうやって国内で守るのか、という議論になる」
なぜ、日本の現場力はさびついてしまったのか。原因を探るには、まずは現場の実情をつぶさに見る必要がある。日経ビジネスは、モノづくりの基盤を支える鋳物工場に足を運んでみた。
江戸時代から鋳物が盛んな町として知られる埼玉県川口市。今も100社超の鋳物メーカーが、溶かした金属を鋳型に注ぎ込みながら、大小様々な金属製品を作り出している。
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