
人口減少による人手不足が、硬直的な日本型雇用に引導を渡す。年齢や性別、世代に関係なく、雇用の流動化が加速する。定年を迎えれば引退を強要される。そんな時代とは決別だ。
企業向けにインターネットサービスを手掛けるガイアックスは今から7年前、ある事件をきっかけに日本型の雇用モデルと決別した。

「この会社を自分のものにしたい」。発言の主は、スマートフォンなどについての総合サイトを運営するAppBank事業を担当していた村井智建氏。2012年当時はガイアックスの一事業部だったが、株式会社として独立する「カーブアウト」を希望した。
当時の経営陣の大半は、社員のわがままな主張にあぜんとした。ガイアックスはメディアマーケティングやシェアリングエコノミーの領域で多数のサービスを展開する。村井氏の独立を許し、社員がそれぞれ同じようなことを言い出したら組織が空中分解しかねない。
ただ、上田祐司社長は別のことを考えていた。「担当者が事業を持っていってもいいんじゃないか? もう企業が雇用を維持する時代じゃない」
経営陣で議論を重ねたが平行線をたどり、最後は上田社長がゴーサインを出した。
「あり得ない」
上層部約20人のうち半数以上が、この決断に反発しガイアックスを去った。だが、上田社長に悔いはない。
この“事件”を機にガイアックスは、「自律的にキャリアを築こうとする個人」を前提にゼロから組織をつくり替えていく。その結果、これまでの常識に囚われない“自由すぎる”制度が、続々と誕生した。

全ての事業部長に稟議(りんぎ)なしでの独立権を認め、事業のカーブアウトを制度として全社に展開した。
キャリアは個人が自立的に築くもの、という前提に立った場合、給与の金額はどうやって決めるべきか。突き詰めると、社員自らが決めるのがベストだ。5~6年先の中期目標を自身で設定し、成果に応じた給与を上司と相談して事前に決める。年功序列は消滅し、究極の成果主義になった。
それぞれの仕事について、社員として取り組むか、業務委託の形で個人事業主として取り組むかも、自由に決めていい。社長に事業をコントロールする力はほぼなくなり、別の事業の担当に異動させるといった人事権も消え失せた。上田社長は、「経営者も執行役員も、社員という『個』に対するメンター役くらいに捉えている。もはやどこまでが社員かすら、把握が難しい」と話す。
会社に忠誠を誓う代わりに安定した雇用を保証してもらうという、日本型雇用の関係性はそこにはない。逆に言えば、ガイアックスは雇用の流動化がなければ成り立たない組織になった。
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