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この30年、地盤沈下が進んだのは設備やヒトへの投資を怠った企業だけではない。学術論文の数や研究者の国際比較でみると、日本の地位低下が顕著になっている。イノベーションや新興企業の「種」となる研究開発力をどう立て直せばいいのか。

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 上位国のなかで人数を減らしたのは日本だけ──。調査会社クラリベイト・アナリティクス(東京・港)が今年まとめた結果に衝撃が走った。調査対象は学術論文から引用される件数が国際的に上位の論文を書いた学者の数。海外の学者との国際共著は対象に含む。

研究開発費や研究者数も相対的に地位低下している
●主要国の研究開発費
(写真=PIXTA)

 クラリベイトは2014年と18年の実績を比較し調査結果をまとめた。日本は99人から65人へと、14年当時の上位10カ国のなかで唯一減少した。18年はサウジアラビアの方が上位だ。

 「技術立国」をうたい、科学分野でのノーベル賞で20人超の受賞者を輩出してきた日本。基礎研究の強さは中国など新興国に対する優位性のはずだが、このままではその地位も危ない。

化学、工学でも中国に抜かれる

 文部科学省の調査では、分野別論文数で「化学」では00年代前半まで世界2位だったが、16年に5位に低下。「工学」も米国に次ぐ2位から11位に沈む。代わりに中国が化学、工学ともに米国を抜き世界トップとなった。

 文科省がまとめた19年時点の調査によれば、日本の17年の研究開発費総額は1990年比で54%増。物価を考慮した実質値で、デフレ傾向にある日本にとって悪くない水準にも思える。

 それでも、同期間で2倍以上に増えた米国、40倍近くに増えた中国に比べスピード感の違いは否めない。2000年近くから急速に伸びた中国の研究開発費は49兆円超。米国が54兆円弱に迫る勢いで、日本の17兆円超の3倍近い。物価を考慮したベースで00年を1にした経済協力開発機構(OECD)の推計(10年基準)で、研究開発費の額は1.3倍で、中国は10.8倍、韓国は4倍だ。欧州のいわゆる「先進国」の伸び率は日本とほぼ同程度だが、そこが「適温」なのだろうか。

 「そもそも研究できる環境が本当にあるのか」。クラリベイトの棚橋佳子取締役は指摘する。修士課程では研究半ばの1年で就職活動に追われ、博士課程に進んでもその先のポストは限られる「ポスドク」問題が立ちはだかる。若手研究者は3年や5年で結果を出していく任期ありの雇用でどうにかしのいでいる現実がある。

 若手研究者の育成を掲げる東京大学。統合報告書によれば、15年度に16人にすぎなかった若手研究者のポストは17年度、172までになった。クラリベイトの調査で取り上げられるような多引用論文を書く人材は50代以上が大半。「40代以下の研究者の厚みをどれだけ作れるか」(クラリベイトの棚橋取締役)が課題だ。

 17年時点で日本の人口1万人当たりの研究者は52.5人。韓国の74.5人を下回るが主要国のなかでも高い水準にある。しかし、大学院に籍を置く人材の絶対数は10年代に入り頭打ち。人口減があるにしても、大学院で学ぶ魅力の減少があるのではないか。

企業の特許出願も減少

 学術論文よりも実用化に近い技術を語るのが特許だ。すでに出来上がった技術をオープンにする代わりに権利として守る。その特許出願でも日本は件数を減らしている。かつては40万件を超えた日本企業による特許出願が30万件強まで減っている。