データがモノの価値を解析し、取引を記録するようになれば、通貨の役割は変わる。無機的な数字にすぎないお金に、使い手の「信用」が映し出されるようになる。国家に頼らずとも信用が担保される社会が実現すれば、「お金」は不要になるかもしれない。

 コンピューターによって世界を支配された人類は「ザイオン」というコミュニティーに属し、協力して自らの解放に向けて立ち上がる──。1999年の初公開にもかかわらず、AI(人工知能)とVR(仮想現実)時代の到来を予言した映画「マトリックス」の世界観には、未来社会を読むヒントが潜んでいる。

 ザイオンで人と人、組織と人を結びつけているのは「信用」と「信頼」。3部作、計約7時間の物語に、通貨を使う姿は出てこない。ザイオンは国家というより、家庭のような結びつきの強い共同体として描かれている。

 マトリックスで通貨が登場しない理由は特に描かれていないが、この映画のように未来の世界では、通貨が不要になっている可能性がある。

 そもそも今のような貨幣経済が一般化したのは農耕社会から工業社会へのシフトがきっかけだ。

 「貨幣経済の拡大は都市化に伴う無縁社会の拡大と関係している」。コンサルティング会社、シグマクシスの柴沼俊一常務執行役員が指摘するように、お互いの顔が見える村落共同体では、お金のやり取りより、おすそ分けや助け合いをベースにした贈与社会だったと考えられる。

 だが、都市化によって知らない人同士が暮らすようになり、互いを信用する手段としてお金と契約の概念が必要になった。そして、共通の尺度として信用度の高い法定通貨の重要度が増した。いま問われているのは、その通貨が今後も信用され続けるのかどうかだ。

データが信用を創り出す世界になるか
●お金の価値を裏付ける信用の変遷
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 各国政府や中央銀行は法定通貨に影響するとして、リブラのような通貨への警戒感を隠さない。だが、通貨の信用を毀損しているのは国家でもある。国家は輸出産業を後押しする目的で通貨安競争に明け暮れている。中央銀行は大規模な量的緩和政策によって、自ら発行する通貨の価値を損ねている。世界の通貨供給量はこの10年で劇的に増加、膨張は止まりそうにない。

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