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「民間のアイデアが政府を動かす」
松本 大氏 | マネックスグループ会長兼CEO
(写真=陶山 勉)

 面白い、仲間に加わりたい──。リブラというデジタル通貨をフェイスブックが計画しているニュースを聞いた時、直感的にそう感じた。リブラ協会のメンバーの中に知り合いがいたので、すぐに連絡してフェイスブックの担当者を紹介してもらい、リブラ協会に加盟申請した。

 当初は8月中に1次審査を終え、次のステップへと進むという説明を受けたが、9月になっても返事はない。こちらから問い合わせて、「いろいろとオペレーションの詳細を詰めているから、もう少し待ってくれ」と言われたところだ。

 マネックスグループが加盟申請をしたことについて「どんなことができるのか、まだ詳細が分からないうちに話に乗るのはいかがなものか」と否定的な意見もあるだろう。だが、詳細が分かってからではもう遅い。自分自身が、リブラ協会の内部でどんな議論がされているか、何が問題になっているのか、知りたい部分がある。そしてその輪に加わりたい。

 いつの世も、革新は民間企業から始まるものだ。リブラ構想は、そのきっかけ作りをしただけでも十分意味がある。

 自分がかつてトレーダーとして身を置いていた債券の世界でも同じようなことがあった。1982年に米メリルリンチが「TIGRs(タイガー)」という債券を開発した。これは、米国債を元本部分と利息部分に分けて、それぞれをゼロクーポン債として販売するもの。利息が付かない代わりに価格は割り引かれる。今で言うストリップス債だ。同業の米ソロモン・ブラザーズも、同じ仕組みの商品を「CATS(キャッツ)」と名付けて販売した。

 そうこうしているうちに4年後、今度は米国政府が自ら、ゼロクーポン債を発行した。つまり、一金融機関が発明した商品のアイデアを、政府が取り入れたのだ。

中央銀行もデジタル通貨を

 今回のリブラも、タイガーと同じ流れになるかもしれない。中央銀行にとって、デジタル通貨を発行するメリットは間違いなく大きい。

 現在、世界の債券発行高のうち、4分の1がマイナス金利だという。そんな時代に、紙幣を発行することは、中央銀行にとってコストが高い。なぜなら、以前のように金利がプラス圏の時は、金利のない紙幣を発行すればシニョレッジ(通貨発行益)を得られたが、今のように金利がマイナスなら紙幣を発行すると高くつく。何と無駄なことをしているのだろうか。

 日本がマイナス金利を採用しているのは、皆にお金を使ってもらい、経済を動かすためだ。だが、なかなかお金は回らない。デジタル通貨ならこうした問題も解決できるはずだ。時間の経過とともに貨幣価値を目減りさせるよう、あらかじめプログラムしておけばよいからだ。マイナス金利を導入するより、日本円をデジタル通貨にしたほうが、デフレ問題は解決できるのかもしれない。

 東京に一極集中しがちな日本経済の問題点も解消されるだろう。東京と地方では、競争力が違うのに同じ通貨を使っている。各都道府県を1つの国と捉え、各地域の経済力に見合った通貨と交換レートがあってもよいのではないだろうか。

 例えば東京の円と地方の円があって、地方の円の方を安くすれば、通貨が安いという競争力が持てる。通貨の設計によって日本経済の不均衡に対処することができるようになる。

 中国がデジタル人民元について積極的になっているのが、リブラはすごいと暗に認めている何よりの証拠だろう。デジタル通貨の利便性をてこに、人民元が決済通貨として使われることを狙っているとすれば、長期的にはドル基軸体制すら、揺るがしかねない。

 トランプ大統領は、将来の基軸通貨が人民元に取って代わられないようにするためにも、リブラを前向きに認めるべきだ。なぜなら、リブラに組み入れられる資産の少なくとも半分は、米ドルになるだろうといわれているのだから。イノベーションを封じ込めるより、アイデアやメリットを生かす方向で考えるべきだろう。(談)