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判断力低下は他人事、あるいは遠い将来の話と思っていないだろうか。多くの企業にとって喫緊の課題であると同時に、生活者としても準備できることはある。判断力が低下することを恐れず、前向きに立ち向かうために、まず知ることから始めたい。

(写真=竹井 俊晴)
ローソンは現在22店の介護相談所を併設した店舗を100店まで増やす計画。近隣の高齢者が定期的に集まる場を提供する。介護や認知症の情報提供のほか体操も(写真=竹井 俊晴)

 多くの企業にとって高齢の顧客への対応は喫緊の課題になりつつある。中でも早くから危機感を強めていたのが、毎日多くの高齢者を迎えるGMS(総合スーパー)。先行する大手2社の取り組みから、対応のヒントを探ってみよう。

 都内のあるイトーヨーカ堂の店舗で3年ほど前、毎日来ては会計をせずに商品を持って帰ってしまう高齢女性がいた。店は当初、万引きを疑い警察に相談した。その場は収まったが、後日にまた来店して、会計をせずに帰ってしまう行動が続いた。

 「もしかしたら認知症かもしれない」。従業員が気づき、地域の包括支援センターに連絡した。すると女性は一人暮らしで、認知機能の低下が疑われるにもかかわらず、介護保険の申請ができていなかったことが判明。包括センターが介在したことにより、その後介護保険を使ってヘルパーと一緒に来店するようになったという。

人材つなぎ留めのツール

 対応したのは認知症特有の行動といった基礎知識、具体例を学ぶ「認知症サポーター」と呼ばれる民間資格を持った従業員だ。小田急電鉄で沿線1000人の駅員のうち870人が取得するなど公共交通機関でも広がっているが、GMSの取り組みは先行しており、規模が大きい。イトーヨーカ堂は2015年から資格取得のため社内研修を実施している。資格を持つ従業員は19年9月時点で8500人を超えている。

 サポーターを増やすと同時に、店舗は地域の自治体と関係を強めてきた。高齢者の支援拠点である地域包括支援センターとのつながりができたことで、家に帰る道が分からなくなってしまった高齢者への対応など、「以前なら警察に通報していたケース」(強矢健太郎イトーヨーカ堂経営企画室マネジャー)で両者が連携。円滑に家族に引き渡すといった対応につなげている。

 イトーヨーカ堂にとってサポーター養成は、「人材つなぎ留めのツールにもなっている」(強矢氏)という。パート従業員は40代以上が多く、介護が身近な問題だ。家族に認知症の人がいない場合でも、研修を通じて近い将来どんなことが自分の周囲に起こり得るのかが分かり、すでに介護している同僚への理解が深まる。「親の介護にも役立つ話だった」という感想が寄せられる養成講座は「研修にしては珍しく人気がある」(強矢氏)という。

日経ビジネス2019年9月23日号 42~45ページより