全5488文字

モノを運べなくなる限界を迎えた日本の物流インフラ。だが、課題があるところにこそ商機がある。デジタル技術にたけた「新参者」が立ち上がる。彼らは日本をフィジカルインターネットの世界へといざなうことはできるか。

アスクルがAVC関西に導入したロボットはトラックから降ろされた荷物を最適な場所へ届ける役割を果たす。積載能量は1トンと力持ちだ

 大阪府吹田市。ここに東京ドーム3.4個分の広さに相当する16万m2の延べ床面積を誇る物流施設がある。その中では、縦1m、横幅が83cmの楕円型ロボットが、いくつもの段ボール箱を背負い通路を縦横無尽に動き回っていた。積載能力は1トンにも及ぶ。

 ここはオフィス用品最大手アスクルの物流センター「AVC関西」。同社は法人に文房具やオフィス用品を、個人にも冷凍パンや日用品、化粧品など幅広い製品をインターネットを通じて販売している。自ら商品を顧客先に配送する機能もかねて持っていたが、宅配国内最大手ヤマトホールディングス(HD)で物流危機が表面化した2017年ごろから一部エリアについて自前の物流インフラ作りに乗り出した。ネスレ日本(神戸市)の配送を受託するなど、施設の外部開放も進める。オープンな物流インフラを目指しているという意味ではフィジカルインターネットの入り口に立っているといえる。

 AVC関西は関西圏の物流の「ハブ(中心拠点)」として、シンガポールの物流運営大手GLPが持つ施設を借りて18年2月に稼働した。こうした物流倉庫では、メーカーから届いた段ボール箱が山積みになるのが一般的。トラックから荷物が降ろされると、届いた順番に人が手押しのフォークリフトを使って段ボールを少しずつ動かし、コンベヤーに載せる。

 「労働人口が減少するなか、ロボットの対応は不可欠」(アスクルの物流事業を統括する天沼英雄執行役員)として導入したのが冒頭の楕円型ロボットをはじめとする様々なロボットだ。段ボール箱は楕円型ロボットに積み込まれ、次の作業である商品の仕分けをするコンベヤー部分へ運ばれる。

 客先ごとのコンテナへと商品を仕分ける際には専用の吸盤が付いたアーム型のロボットを使う。洗剤の詰め替えパックからカップ麺まで、詰め込んだ商品によってパッケージの硬さは異なる。アームの吸盤が商品を吸い上げる圧力を間違えると、薄いラップのような包装であれば破損の可能性もある。あらかじめロボットがどんなものを仕分けるのかを知る必要があり、圧力をどれくらいかけるべきなのかを計算。頭脳を持たせたロボットで、あらゆる商品を正確に仕分けていく。

データを物流に生かす

 アスクルではAVC関西のほかにも神奈川県をはじめとした全国に持つ物流拠点でロボット化を進めているが、配送でも新たな取り組みを始めている。19年2月に始めた「エコ配フレックス」というサービスだ。

 スマートフォン(スマホ)を介して、顧客の近くの倉庫に届いた荷物を、登録した個人が届ける。「インターネット通販で集めた注文データを持つからこそ、需要予測や配達員がどれだけ必要かが分かり、物流に生かすことができる」と同社の配送事業を担う伊藤珠美執行役員は説明する。現在は中央区など東京都内の一部地域が対象だが、「主婦や学生など、ちょっとしたお小遣い稼ぎをしたい人にぴったり」と伊藤氏。2~3時間働けば5000~6000円は稼げるという。

 ネット通販事業を手掛けながらも自ら効率的な物流網の構築を急ぐアスクル。PART2で見たように、日本の物流インフラは限界を迎えており、何らかの対応をしなければ、ネット通販事業を維持できなくなるとの危機感が同社を突き動かす。

日経ビジネス2019年9月16日号 38~41ページより