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非効率な仕事の進め方に人手不足が相まって、国内の物流現場が悲鳴を上げている。効率的な物流基盤となるフィジカルインターネットは日本にこそ必要な考え方だ。国内の宅配網を築き上げたヤマトホールディングスも動く。

ヤマトグループ総合研究所は米ジョージア工科大学とフィジカルインターネット分野で協力する(左)(写真=右:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 2019年9月3日、米ジョージア州にあるジョージア工科大学。PART1でフィジカルインターネットについて語ってもらったブノア・モントルイユ教授の元に意外な日本人の姿があった。

 日本の宅配最大手、ヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングス(HD)の元会長で、ヤマトグループ総合研究所理事長を務める木川眞氏。この日、両者はフィジカルインターネットの共同研究を視野に協力を深めていくことで合意。日本の大手企業がフィジカルインターネットの実現に取り組むと初めて表明した瞬間だ。

 ヤマトHDは今年で創業100年。1929年に日本初の定期便路線事業を開始、76年には故・小倉昌男氏が所管官庁と闘いながら宅急便事業を始め、日本全国に宅急便ネットワークを築き上げてきた。

 だが、そのヤマトの宅急便事業は限界を迎えた。2017年にはドライバーの長時間労働や未払いの残業代支払い問題が表面化。ヤマトはドライバー不足を理由に最大顧客だったアマゾンジャパン(東京・目黒)など法人顧客に大幅な値上げを提示し、受け入れる荷物量も抑制した。17年3月期は大幅な営業減益に陥り、ヤマトの経営基盤は大きく揺らいだ。

 そうした中、活路を求めたのが、フィジカルインターネットだった。ジョージア工科大学との協力を通じて、これからの物流網を探る狙い。木川氏はフィジカルインターネット実現のカギを握る「オープンシェアリング」の発想を積極的に取り入れる構えだ。「(ライバルの)佐川急便に我々の倉庫を使ってもらっても構わない。業界全体で効率化に取り組む必要がある」と、従来の業界の常識にとらわれず、他社にも呼び掛けて、新たな物流網を作り上げる覚悟を示す。木川氏が「ヤマト1社のための研究ではない」と強調するのも日本の物流網は今や回復困難なまでに傷んでいるからだ。

下請け配送業者が“反旗”

 「○○エリアの委託先である○○運送社から11月中旬に撤退要請がありました。時期は2019年2月末まで。現在委託先を検討中です」

 18年暮れ。年末商戦向けの商品配送業務で慌ただしさがピークを迎えていた味の素本社に、傘下の物流会社から1通の書面が届いた。この物流会社がトラック配送業務の委託先業者から契約打ち切りを通告され、親会社である味の素に窮状を訴える内容だった。

 文面からは現場の悲痛な叫びがにじみ出る。「傭車先に料金値上げを実施しても拘束時間の長さを重視する会社が多く、加工食品配送は敬遠される」「自社便で対応も自社乗務員が帰宅後再出勤することになり、拘束時間がコンプライアンス上問題」「管理職が対応するも、疲労により、現在1名が退職、1名が休養」「納品先での待機時間や夜間仕分けの対応などで乗務員の不満が積もり、退職者が増加中」──。

 配送の依頼が下請けや孫請け、ひ孫請けの配送業者へと流れ、下層にいくほど仕事の単価が下がる「多重下請け」が根付く日本の物流業界。消費増税前の駆け込み需要など荷物配送量が一時的に急増するケースでは、業界の「割に合わない仕事でも上から振られたら断れないという暗黙の了解」(あるトラック配送トライバー)のもと、配送業者らが徹夜で荷さばきするなど現場に負担をかけながら対処してきた。

日経ビジネス2019年9月16日号 34~37ページより