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通信業界で起きた革新が、物流業界で起こりつつある。物流サービスを一変させる可能性を持つ「フィジカルインターネット」だ。最先端の研究をリードする米ジョージア工科大学の研究者が、その実態を語った。

ジョージア工科大学サプライチェーン&ロジスティクス研究所のフィジカルインターネットセンターのラボ(左)とモントルイユ教授

 米南部ジョージア州アトランタにある理工系大学の名門、ジョージア工科大学。全米でも難関校の一つであるこの大学は70年以上にわたって物流の効率化について研究を積み重ねてきた。その中核となるのが「サプライチェーン&ロジスティクス研究所」。全米のみならず、世界中から集まった研究者や学生が所属する同研究所は物流領域で世界の注目を集める存在だ。

 そんなジョージア工科大学が世界の物流網を一変させる研究を手掛けていることは、日本の物流業界関係者の間でも知る人が少ない。その研究領域こそが、「フィジカルインターネット」。通信の世界を一変させたインターネットを、物理的な物流の世界で実現しようというのだ。

 物流業界に革命を起こすと期待されるこの新たな研究領域をリードするのが、ブノア・モントルイユ教授。まずは同氏からフィジカルインターネットの概要や、業界に与えるインパクトについて語ってもらおう。

 フィジカルインターネットとは、物流施設やトラックなどの物理的な機能を利用して、インターネット上で情報が動くのと同じように、効率的にモノを運ぶ物流を指します。

 もう少し具体的に説明しましょう。通信の世界で起きた革新を思い出してください。電話は電話局と会社や家庭の間を回線でつなぎ、さらに電話局同士をつないで通信していました。それが、通信ネットワークが整備され、広がったことにより、インターネットが生まれ、今ではルーターを経由して、その時々で最適なルートを情報が自由に行き来するようになりました。そうした世界を物流でも実現する。それがフィジカルインターネットです。

 確かに今の物流インフラは基地局を中心としたネットワークを築いていた通信インフラと似ている。大都市圏に中心拠点(ハブ)を置き、ここに一度、荷物を集約した上で、各拠点(スポーク)ごとに仕分けて配送する。米物流大手フェデックスの創業者、フレッド・スミス氏が米イエール大学の学生時代に考案した「ハブ・アンド・スポーク」と呼ぶ考え方で、物流業界ではこれが最も効率的な方法ととらえられてきた。

これまでの物流大手は自社でインフラを築き、利用してきた。その核となったのが、ハブ・アンド・スポークという考え方だ(写真=Bloomberg/Getty Images)

 だが、この方法が必ずしも最善かというとそうとは言い切れないことを通信業界が示している。

 通信業界では大量のデータをやり取りする時代になると、電話会社は顧客のどんな要望にも応じようと、膨大な投資をして回線の能力を高めてきた。しかし、実際にその能力いっぱいにまで回線が使われることはほとんどない。ネットワークには無駄が生まれてしまうことになる。

 インターネットがそうした無駄を省く発想を持ち込んだ。大量のデータを送るにも、パケットと呼ぶ形で細分化し、それぞれのパケットがその時々で最適なルートを通って相手に送り届ける。相手先のコンピューターがそうして分割して送り込まれたデータを再構成する仕組み。世界中に張り巡らせた回線を上手に使いこなしているわけだ。

 物流でこのやり方を当てはめると、どうなるか。大量の荷物を小口に分け、それぞれの荷物をその時々で空いている倉庫やトラックを使いながら運ぶイメージとなる。モントルイユ教授が続ける。

日経ビジネス2019年9月16日号 28~33ページより