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 11年3月の東日本大震災から2週間あまり。多くの外国人が自国へと帰る中、ファーウェイの孟晩舟氏は日本へと向かった。創業者である任正非氏の娘で、18年にカナダで逮捕されたことで一躍有名になった人物である。飛行機の乗客は、孟氏のほかに1人しかいなかったという。災害でダメージを受けた通信インフラの復旧の陣頭指揮を執ることが目的だった。

  任氏は「ファーウェイの社員たちは東日本大震災の被災地に向かい、2週間の間に668の基地局の復旧作業を完了させた」と誇らしげに振り返った。ファーウェイのすごみは、その国の社会に入り込む「営業力」にもある。

 「30カ国の通信事業者50社と5Gの商用契約を結んだ」。胡厚崑(ケン・フー)輪番会長は6月、上海市内で5G関連のビジネス動向を説明した。英国やスペインなど欧州で28件、中東11件、韓国などアジア太平洋6件、その他で5件の契約を結んだという。

低い米国市場依存度 調達先は世界中に
●ファーウェイの地域別のビジネス
(2018年、1元=約16円)
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 米国はファーウェイ製品にはセキュリティー面で問題があると警鐘を鳴らすが、多くの国でファーウェイ製品が受け入れられている。年内に基地局の出荷件数は50万に達する見込みだ。

日本からの購買額は80億ドル

 もちろん品質とコストの見合いでファーウェイを選んだという面はあるだろう。だが、通信は国家のインフラだ。西側諸国は、異質な政治体制を持つ中国の企業の製品を採用するリスクを入念に検証しようとする。それでも欧州の西側諸国を含む多くの国で、ファーウェイ製品が採用されているのは、綿密なロビー活動を含む営業力のたまものと言えるだろう。

 典型的なのが英国だ。ファーウェイは10年、英国に「サイバーセキュリティ評価センター(CSEC)」を設置。11年に英政府でCIO(最高情報責任者)を務めたジョン・サフォーク氏を同社セキュリティー部門のトップに据えた。英政府による検証も受け入れて、ソースコードレベルのチェックを受けている。

 ファーウェイは昨年、66億ドルの部品などを日本から購入した。今年は80億ドルに達する。購入額を開示するのは、世界最大の通信機器メーカーの調達力がその国の経済に貢献していることをアピールする狙いもあるだろう。

 ファーウェイが昨年末に明らかにした中核サプライヤー92社を国別に整理すると、最多は米国勢だ。同社が米国の圧力に簡単に屈しない要因はこのあたりにもある。

 財務面はどうだろうか。ファーウェイは非上場のため、上場できない財務面の問題があるのではと噂されるが真偽のほどは定かでない。同社はKPMGの監査を受け、上場企業並みのアニュアルリポートを発行している。

 このアニュアルリポートを基にすると、14年に999億8500万元だった自己資本は、18年には2330億6500万元まで積み上がっている。

経営の安定性を確保
●自己資本と負債比率の推移
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●営業キャッシュフロー推移
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 中長期的な安定性を見る負債比率はほぼ横ばいか微減傾向にあり、直近では65%。営業キャッシュフローは18年だけで746億5900万元を稼ぎ出しており、足元を見ればいずれも健全な水準にある。

 前述の通り、ファーウェイの19年1〜6月期は一部期間で米制裁によるスマホ販売に影響を受けながらも増収増益と好調な業績を維持した。ただし、下半期は全期間にわたって影響を受けることになりそうだ。

 ファーウェイの米国での事業はもともと小さいため、市場としての米国を失っても同社が致命傷を受けることはない。しかし、調達や技術開発の面で、じわじわとダメージを被るはずだ。

 ただ、アニュアルリポートを見る限りでは、即座に会社が傾くといったことはなさそうだ。同社は米制裁に備えて、部品を積み増すなど対策を取ってきたとされる。米国が本気でファーウェイをたたきたかったのであれば、もう少し早く手を下す必要があったかもしれない。

日経ビジネス2019年9月9日号 26~33ページより