
今年4月、ファーウェイが深圳市で開催した「グローバルアナリストサミット」。登壇した徐文偉(ウィリアム・シュー)取締役・戦略研究院院長は力強く次のように語った。
「今後、多くの大学と協力して先端技術イノベーションラボを開設する。ラボは論文の発表を目標にするのではなく、基礎的な研究の進展とイノベーションに重点を置き、学界と実業界のウィンウィン実現を目指す」
世界の大学との共同研究をさらに進めるだけでなく、ビジネスとしての結果を性急に求めず、大学にこれまで以上に寄り添うとの宣言だ。
徐氏がこう宣言したのは、米中貿易摩擦の激化を見据えてのことだ。米国ではスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校、マサチューセッツ工科大学(MIT)などの有力大学がファーウェイからの資金の受け入れを拒むようになっている。
ファーウェイで半導体の基礎研究に携わる若手技術者は「一部の大学との協力が難しくなっていることは、肌で感じている」と話す。米国の動きに対抗するため、ファーウェイは世界各地の大学とより緊密な協力関係を結ぶ道を探っている。
こうした一連の動きは、研究開発力こそがファーウェイの強さの源泉であり、米国がその力を恐れていることをはっきりと示している。
「ファーウェイには売上高の10%以上を研究開発費に投じるという社是(ファーウェイ基本法)がある。直近の数年で言えば約15%で、昨年は150億ドル(約1兆6000億円)だった」。ファーウェイの郭平輪番会長は、研究開発についてこう説明する。
これはどの程度の金額なのか。世界のIT大手と比較すれば米アマゾン・ドット・コム、グーグル、サムスン電子に続く規模。米マイクロソフトやアップルを上回る。
他業種で言えば、自動運転など新技術の研究開発に力を入れなければならないトヨタ自動車の研究開発費が18年度に1兆488億円だった。日本円換算でファーウェイはトヨタの上をいく。少なくともファーウェイが研究開発費の面で世界トップの水準にあるのは間違いない。
人員構成から見ても、ファーウェイの研究開発への傾注ぶりは明らかだ。18年末のファーウェイの研究開発者の数は8万人超。全社員の45%が研究開発に従事していることになる。
世界知的所有権機関(WIPO)によれば18年のファーウェイの特許出願数は5405件と、企業別では2年連続で世界一だった。2位の三菱電機(2812件)や3位の米インテル(2499件)に対して倍近い差をつけた。
さらに、徐氏の宣言からも分かる通り、潤沢な研究開発の資金や人材に甘んじることなく、外部の知見を取り入れることに余念がない。
現在の企業の研究開発におけるキーワードは「オープン」だ。個々の技術はより複雑になる一方、ことなる領域の技術の融合が不可欠となり、自社以外の企業や研究機関との連携が以前にも増して重要になっている。
●ファーウェイの主な共同研究の相手企業

早くから中国を飛び出し、海外に打って出たファーウェイはもともと海外の企業や研究機関との共同研究にも積極的だった。現在も独ライカカメラや英アーム・ホールディングス、独アウディ、スイスABBなど、様々な企業と共同研究を進めている。
今後は基礎研究にも一層、力を入れる。輪番会長の郭氏は言う。「近年は製品開発だけでなく、基礎的な研究にもより力を入れるようになった。ムーアの法則(半導体の集積率は18カ月で2倍になるという法則)とシャノンの定理(通信容量の限界を表す定理)の持続性が不確実になる中で、新たな技術のポイントを探索しなければならないからだ」。ファーウェイは現在、基礎的な分野に研究開発費の約2割を振り向けているという。
ファーウェイは、米国の包囲網が狭まる中でも莫大な資金と人的資源を使い、巧みに海外の企業や研究機関との協力関係を築こうとしている。その研究開発力が今後、ますます基礎研究の領域に進んでくるとしたら、日本企業の強みはさらに失われる可能性がある。
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