
8月16日、中国でファーウェイとして初の5G対応スマートフォンとなる「Mate20X(5G)」が発売された。様々な実証実験が行われ「5G先進国」のイメージが強い中国だが、実際に5Gに接続できる場所は、まだ限られている。
上海市中心部にある中国移動(チャイナモバイル)の旗艦店。Mate20X(5G)を購入し、説明員の言う通りに利用設定をすると、左上に「5G」の文字が表れた。
ダウンロード速度を計測すると、「毎秒230.91メガビット」との表示。同じ場所で4Gで計測した時は同92.55メガビットだったので、およそ2.5倍の速度が出ていることになる。記者が普段使っているアップルの「iPhone XR」と比較しても、反応は機敏で写真の画質も良い。
製造業であるファーウェイの力を知るには、まず製品の実力を知ることが不可欠だ。そこで本誌はファーウェイの5G対応スマホを日本に持ち込み、日経xTECH編集部とDMM.make Akibaの技術者の協力を得てMate20X(5G)の分解を実施した。
そのメイン基板は、お世辞にも洗練されているとは言い難い。だが、同社の実力や野心を感じさせる点も随所に見られた。
洗練度低いが先端実装技術
基板そのものは、コストや完成度に多少目をつぶってでも期日を優先した印象だ。例えば、アップルの「iPhone」は、分解されることを前提として基板の見栄えにも気を配っているといわれる。それに比べると、Mate20X(5G)の基板はいかにも粗削りだ。
分解した技術者は、「(基板を固定する)ねじが多すぎる」「最初は2枚に分かれていたのを途中から1枚に統合したような設計」などと指摘する。
本来、ファーウェイ初の5G対応スマホは、折り畳みタイプの「Mate X」になるはずだった。しかし、当初19年6月に予定されていたMate Xの発売は同年9月に延期となり、さらに遅れるという見方も出ている。
米国政府の禁輸措置による影響や、ライバルの中国・中興通訊(ZTE)に5G対応スマホの発売で先を越されたあせりもあったのか、「繰り上げ」で先陣を切ることになったMate20X(5G)の舞台裏はかなり切迫していたのかもしれない。
とはいえ、Mate20X(5G)の基板からはファーウェイの実力もうかがえる。特筆すべきは、2枚の半導体パッケージを重ねて基板に実装する「PoP(パッケージ・オン・パッケージ)」と呼ばれる手法だ。集積度向上や配線の短縮といった利点がある。
PoP実装そのものはiPhoneなどにも採用されており、目新しいものではない。ただ、初めて実用化する5GモデルでいきなりPoP実装という先端技術を適用してきたことは、ファーウェイがもはや後追いではなく、先頭集団の一角に食い込んでいることを如実に示している。
ちなみに、Mate20X(5G)の頭脳の役割を果たすプロセッサー「Kirin 980」と5Gモデム「Balong 5000」はファーウェイ傘下の半導体メーカー、海思半導体(ハイシリコン)製である。このほかにも、同社製チップが多数使われている。分解で確認できただけでも、19個のハイシリコン製半導体が実装されていた。
RFチップの内製化も視野か
興味深いのは、それらの中に5G通信などに必要な高周波(RF)回路を構成する半導体が少なからず含まれていることだ。RF半導体は、もともと米国企業や日本企業が強い分野である。Mate20X(5G)でも、米スカイワークスソリューションズや米クォルボの複合モジュールが使われている。両社はいずれもファーウェイの「コアサプライヤー」に名を連ねている。
米国政府による事実上の禁輸措置を今も受けている同社にとって、米国企業への依存は大きなリスクとなる。実際、19年5月に米国政府がファーウェイに事実上の禁輸措置を適用した直後、クォルボは一時的に同社への供給を停止している。
RF半導体は高度な技術が要求される分野であり、ファーウェイ(ハイシリコン)が米国企業と同等レベルの製品を短期間で作れるようになることは考えにくい。しかし、米中のさや当てが激しくなり、供給を打ち切られるリスクが高まっている以上、ファーウェイは将来的に完全な内製化を視野に入れていると考えてよさそうだ。
ファーウェイの通信機器ビジネスで、スマホと双璧をなすのが携帯電話通信の基地局用設備だ。18年のファーウェイの通信事業者向けネットワーク事業の売上高は2940億元(約4兆5000億円)。スマホ事業が急伸しているため全社売上高に占める割合は4割に下がったが、長年の本業であり会社の屋台骨を支える存在であることは間違いない。
●2018年の世界携帯通信基地局シェア(金額)

●2019年4〜6月世界スマートフォン出荷台数シェア

5G基地局用設備で最高評価

中国移動の担当者は「都市部では4Gの基地局の場所に5G用機器を併せて設置することが多い。ファーウェイ製は小型軽量なので助かる」と話す。
英国の調査会社、グローバルデータはファーウェイのほかエリクソン(スウェーデン)、ノキア(フィンランド)、サムスン電子、ZTEと5G基地局設備を手がける5社の実力を「ベースバンドユニット性能」「周波数ポートフォリオ」「導入しやすさ」「革新性」の4項目で診断している。ファーウェイは唯一全項目で最高評価を取り、5Gの分野では世界をリードする存在であることが分かった。
基地局用機器の競争力においてもスマホ端末と同様、ハイシリコンの活躍が目立つ。
今年2月には複数の機能を一枚で実現する統合チップ「天罡」を発表した。従来の基地局に比べて容積は半分ほどになり、軽量化や低消費電力化にも貢献したという。低価格ながら強力な製品により、携帯通信の基地局でトップシェアの座を堅持する考えだろう。
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