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インバウンドブームなどで地方も不動産の活況に沸いている。その典型が沖縄だ。拡大するホテル需要や好調な住宅建設を狙う地元銀行のライバルとして、鹿児島銀行が進出。国内では低金利に苦しむ地銀が「越境」する動きが相次ぐ。ターゲットはやはり不動産だ。

那覇市にある鹿児島銀行沖縄支店。沖縄では新都心支店を加えた2店舗体制で営業を強化している

 「我々の金利は1.5%前後が基準です。他行の提示金利がうちよりも高ければ、当行の金利を『当て馬』として使っていただいても構いません。今回、ご縁がなかったとしても、これからどうぞお付き合いよろしくお願いします」

 相談カウンターの向こうで営業スマイルを浮かべる銀行マンはこう頭を下げた。沖縄県在住でアパートを経営する男性が鹿児島銀行沖縄支店に2億円近い不動産融資の相談に行った時のことだ。その後、この男性は実際に地元の銀行にも足を運び、担当者に鹿児島銀が提示した金利を基に交渉。すると金利引き下げに応じてくれた。結局、鹿児島銀から融資は受けなかったが、「地元の銀行との取引関係に良い意味での緊張感が生まれ、事業がしやすくなった」。男性はそう感じている。

不動産融資、5年で1.6倍に

 鹿児島銀は2015年、県外地銀として約半世紀ぶりに沖縄に支店を構えた。まず住宅ローンの取り扱いから始まり、17年以降は法人融資も本格化。沖縄県での法人・個人の合計融資残高は既に600億円を超え、目標とする「20年度をめどに沖縄で融資1000億円」の達成を射程圏内に入れた。

 それは地元の銀行にとっては新たな脅威となった。沖縄の地銀は長らく、琉球銀行、沖縄銀行、沖縄海邦銀行の3行によるすみ分けが続き、競争原理が本土よりも働かなかったとされる。

 実際、金利は本土よりも高止まりしていた。鹿児島銀が進出した直後となる16年の沖縄の貸出金利は、全国の地銀平均1.1%台に対し、1.6%台だった。地元の銀行関係者の間には「3行で融資を分け合う“談合体質”のようなものがあった」との見方さえある。

 そこに割って入ろうというのが鹿児島銀なのだ。沖縄の顧客に「金利はまだ下がる」という認識を植え付け、融資競争になれば、圧倒的な強みを持つ地元鹿児島以外で新たな成長の場を獲得できるチャンスが広がる。

 その一つは不動産関連だ。18年度に沖縄県を訪れた観光客数は前年度比4.4%増の999万9000人。足元では日韓関係の悪化など不透明要因があるものの、今年度に入ってからもプラス基調で、年間1000万人の大台超えが視野に入っている。

 増勢が続く観光客の取り込みを狙い、ホテルが建設ラッシュとなっている。今年7月にはハワイのラグジュアリーホテル「ハレクラニ沖縄」が恩納村に開業するなど、名だたる海外高級ホテルが続々と進出。20年には那覇市中心街に客室数260室の「ホテルコレクティブ」もオープンする。運営するのは、台湾の大手セメントメーカー嘉新セメントのグループ会社だ。同社にとってコレクティブは海外で初めてのホテル開発となる。「台湾との物理的、文化的、民族的な距離の近さはもちろんあるが、それ以上に沖縄の潜在力が魅力」。嘉新琉球COLLECTIVEの松本龍之代表取締役は期待を語る。

 住宅市場も好調だ。日本で唯一、人口の自然増が続いている都道府県ということもあり、県内の総世帯は18年が64万世帯と5年前と比べて約5万世帯も増えている。これに伴い、住宅ローン市場も伸長している。

 那覇市の中心部から北部の浦添市、宜野湾市にかけて、南部は市街地から南へ車で約10分の那覇空港以南にかけてマンション建設が進んでいる。宜野湾では、2LDK中古マンションが高いもので6000万円に近い価格で販売され、5000万円前後のものも多い。住宅需要の強さが見て取れる。

日経ビジネス2019年9月2日号 42~47ページより