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昨今の不動産市場をけん引するのは、インバウンドの取り込みを図るホテル開発だ。その象徴的な存在が、猛烈な勢いで新規開業を進める「アパホテル」。同ホテルを展開するアパグループの元谷外志雄代表が口を開いた。

東京都心部を中心にホテルを積極開発するアパグループの元谷外志雄代表。東京五輪後、業界は寡占化が進むとみている(写真=吉成 大輔)

 インバウンド(訪日外国人客)の増加を取り込もうと全国各地でホテル開発が進む。とりわけ観光客が集まる東京都心部では用地取引が活発に行われている。強気のホテル事業者が高値をつけるため、同じ土地を買おうとしたマンションデベロッパーが「買い負け」する事例も相次いでいるという。その中で他を圧倒する勢いで拡大を続けているのが「アパホテル」を展開するアパグループ(東京・港)だ。既に客室数は8万室を超える規模になった(提携ホテル含む)。インバウンドブームに乗った日本のホテル開発は今後どうなるのか。

 私どもが購入したホテル用地のほとんどは、銀行が持ち込んだ案件でした。話はリーマン・ショック前の2007年に遡ります。

 当時、建物の構造計算書を偽造した耐震強度不足が社会問題になりました。(当初、俎上に上がったのはマンションだったが、その後、対象にアパホテルの物件も含まれることが判明し)影響を心配した銀行から融資の全額返済の要請があったのです。そのころはちょうどファンドバブルの最中でしたので、我々はホテルを建てようと思って買ってあった土地を高値で売り払い、銀行からの借入金の返済に充てました。

 そうしているうちに08年9月にリーマン・ショックが起きて、世の中の景気が悪くなり、地価が暴落したのです。銀行が債務者に対し「買ったよりも安値でいいから売りなさい」と指導し、私のところに用地売却をもちかけてきました。

「駅3分以内の土地は全部買え」

 (耐震強度不足問題で)私たちは土地を売って借入金をすべて返し、その結果、手元にお金が残っていました。世の中の企業よりも少し早く銀行の対応が厳しくなったことで、安いホテル用地を買うことができたのです。現在の価格の3分の1から4分の1の値段で買えたところもありました。今ではそれらの土地はすべて値上がりしています。

 ほかには地上げに失敗したところや、矮小地、変形地の案件も持ち込まれました。マンションを建てるには難しく、価値がないところです。形はいびつでもホテルなら設計次第で何とかなる。土地の形よりも駅からの距離が大事だと考えていた私は「電車や地下鉄の駅から徒歩3分以内の土地は買え」と担当者に命じました。

 「100年に1度」ともいわれたリーマン・ショック。日本の景気も一気に冷え込み、株価や不動産価格などは暴落。金融機関によるいわゆる“貸しはがし”が横行する中で、幸か不幸か別の問題で先に“貸しはがし”に遭っていたアパに安く土地を仕入れるチャンスが訪れたのだ。現在の不動産市況がバブルだとすれば、アパはバブル崩壊が生んだバブルの申し子と言えるかもしれない。

 そのアパが今、注力しているのが東京都心エリアのホテル投資だ。

日経ビジネス2019年9月2日号 36~41ページより