その根拠となる調査もある。リクルートマネジメントソリューションズが2018年10月に若手社員を対象に実施したアンケート調査だ。25~32歳で入社4年目以降の会社員のうち、転職を検討したり、実際に踏み切ったりした経験を持つ515人が対象となっている。

 この調査のユニークな点は、転職を考える社員が、もともとの職場にどれだけ適応していたかという視点が盛り込まれていること。仕事による充実感を覚え、職場で活躍している半数弱を「高適応群」、そうでない半数強を「低適応群」と定義した。身もふたもない表現をすれば、「優秀な若手社員」と「平凡な若手社員」に分け、会社を辞めたくなった理由を聞いたのだ。

 結果は鮮明だ。低適応群で特に顕著な回答は「成長機会が少ない」「労働時間が長い」「業務の意義を感じられない」など。ここで言う成長機会とは恐らく、研修・OJT(職場内訓練)など会社側が用意すべき育成プランのことで、低適応群の多くが十分な教育をされないことに不満を持っている様子がうかがえる。

 要は、入社したのに“放置”され、先輩の補佐的業務で残業は長く、今の業務が自分に合わない気がするから「転職でもするか」と考え始める──。これが低適応群の離職への流れ、というわけだ。その意味では、彼らをつなぎ留めるなら、頻繁な面談(接触)や異動希望調査、残業削減も一定の効果があるかもしれない。

 しかし、高適応群の離職を防ぐ上では、それでは不十分だ。リクルートの調査では、高適応群は「仕事の領域を広げたい」「生活に合わせて働き方を見直したい(編集部注:結婚や出産・子育てなどライフステージの変化に合わせて、多様な働き方が可能な職場に移りたい)」「専門能力・知識を発揮したい」という離職理由が、低適応群よりはるかに多かった。低適応群が挙げる理由で退職する人は相対的に少ない。優秀な人材は、教育プランなどなくても勝手に将来を考えるし、成長のためには残業をいとわないし、業務の意義は自分で見いだしていくからだろう。

メンターのメンターをつける

 では、若手有望社員を引き留めるために、企業は今、何をすべきだろうか。

 まずは従来型の引き留め策を見直すことだ。冒頭のF社のように、有望人材用の育成プランを新設するのもその一つ。従来、海外赴任は30歳前後でチャンスが回ってくる職務で、ある意味では吉本氏のケースは「えこひいき」ともいえる。が、人材流出を防ぐには平等主義の返上も辞さない企業が増えているのは事実だ(45ページ)。

 また、従来型引き留め策の中には、比較的簡単な改良を加えるだけで効果が高まる仕組みもある。その一例がメンター制度だ。

メンター制度による中間層の負担を軽減
●新人教育係を支援する「大メンター」のイメージ
メンター制度による中間層の負担を軽減<br><small>●新人教育係を支援する「大メンター」のイメージ</small>
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