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多くの企業は、学歴と経歴を重視する採用方法によって自ら人手不足を悪化させている。年齢や過去を問わず純粋に能力だけで人を集めれば、革新が生まれる可能性も高まる。生まれてから20年ほどで残りの人生が規定される社会では、ダイナミズムは生まれない。

(写真=森田直樹/アフロ)

 戦後、日本社会に広がった「非大卒より大卒型の人生モデルの方が確実に幸福になれる」という常識。社会環境が変わる中、6割以上の人が信頼するその方程式は必ずしも正解ではなくなり、新たなキャリアプランを模索する個人が出てきたことは既に触れた。

 だが、学歴や経歴との新しい向き合い方を考えるべきなのは個人だけではない。それは企業にとっても重要と言える。多くの企業は、学歴と経歴にこだわる採用方法によって自ら人材不足を悪化させている側面があるからだ。

 リクルートワークス研究所によると2020年卒の大学生の求人倍率は1.83倍の見通し。リーマン・ショック前の07年の水準まで戻しており、多くの企業が「人が思うように採れない」と嘆いている。が、その一方で多くの会社は、例えばPART2で登場した高学歴貧困者のような人材で不足分を補う考えは希薄だ。

人手不足の裏に新卒一括主義

最近の求人倍率は右肩上がり、人手不足は深刻だ
●大卒と高卒の卒業年ごとの有効求人倍率
出所:高卒者は厚生労働省、大卒者はリクルートワークス研究所

 日本企業、とりわけ大企業は依然、正社員採用では新卒一括主義。「職歴に空白のある者や35歳まで職歴がない者は原則として相手にされない。非常に問題がある」(人材支援事業を手掛けるレバレジーズの間山哲規執行役員)。引きこもり期間があったり、非正規での転職を繰り返している人には、高学歴で潜在能力があっても、なかなか門戸は開かれないわけだ。

 最終学歴が生物工学の修士卒でも簡単に職が見つからない。地方の非大卒者の境遇も似ている。

 PART3では、1990年代以降の製造業の海外生産シフトによって、工場という地方の有力な雇用の受け皿が縮小したことを指摘したが、実は2013年以降は、円安や海外人件費の上昇を受けて生産拠点の国内回帰の機運は高まっている。しかし、ある大手部品メーカーの経営者は「地方に今さら工場を建てようとしても人がいない」と話す。

 これはある意味、当然だ。

 ほとんどの地方で人口が減少している上、大卒型人生モデルを信奉している若者は都会に出て行ってしまうという事情がまず一つ。だがそれ以上に大きいのは、企業が学歴や経歴にこだわり、“眠っている人材”を掘り起こそうとしないことだ。例えば、地元の高校を出てやむを得ず非正規社員となり、生活の安定を求め、転職を繰り返している。そういった人は高学歴貧困者同様、採用の俎上(そじょう)に載りにくい。

 「職歴に空白があったり、転職を繰り返していたり、学歴が低い人は、再教育が必要で即戦力になりにくい」。そう考える採用担当者の理屈は果たして論理的なのか。企業が好んで採用する大学新卒者に再教育が必要ないのかと言えば、全くそんなことはない。

 日本の大学は“レジャーランド”とも揶揄(やゆ)され、漠然と一般教養を身に付けることはできても、企業の即戦力となる実践的スキルを習得して卒業してくる者はほとんどいない。それでも社会が成り立つのは、企業が大学の代わりに、OJT(On-the-Job Training)で一人前にしてきたからだ。

 大卒であろうと、非大卒であろうと教育は必要。だったら学歴や経歴は一切不問にし、どんな学歴であろうと、職歴に空白があろうと、純粋に能力とスキル、人柄、やる気を見て採用すればいいのではないか──。

 そんな採用戦略を実践し、人手不足の影響を最小限にしている企業が実際にある。

日経ビジネス2019年8月12日号 38~41ページより