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社会から排除され、極度に貧困化する大卒者が目立つ。背景にあるのは、平成30年間で進んだ経済環境の悪化と、都市生活コストの上昇だ。大卒者と非大卒者の生涯年収差5500万円は都会に暮らせば簡単に消えかねない。

アルコールや薬物への依存から抜け出せない人の中には、A氏(右)ら有名大学の出身者も多くいる

 房総半島の南端にある千葉県館山市。アルコール依存症のA氏(39)がこの地に来たのは約10カ月前だ。薬物依存などから社会復帰を目指すための施設「ダルク」で、似たような境遇にある約90人と集団生活をしている。

 静岡県の高校を出て、法政大学に入学。自動車産業での起業を目標に穏当な日々を送り、卒業後は大手自動車メーカーの販売会社に就職した。

 人生の歯車が狂い始めたのは入社9年目。営業でトップクラスの成績を上げ、係長に昇進していたが、対人関係のストレスがたまり「仕事の合間に酒を飲むのが癖になった」という。そして、同僚との食事の帰り、駐車してあった車を破壊し、警察の御用になった。

 これを受け、一般職に降格。「居づらくなって会社は辞めた」。その後、一度は禁酒したが、別の会社に勤め始めた頃、またやった。焼肉店で飲み過ぎて酩酊し、近くの店舗のドアを蹴り上げ、制止に入った警察官を殴ったのだ。

家族と別居し、精神科病院へ

 警察沙汰は2度目ということもあり、家族とは別居し、精神科病院に入院。4カ月ほど「酒抜き」したが、家に戻るとまた飲み始めた。「また問題行動を起こしてしまうのでは」という不安を抱えつつも、酒の誘惑には勝てずに入退院を繰り返したところ、病院の相談員から館山ダルクの紹介を受けた。

 多くの人が目指す「大卒型人生モデル」のルートに乗りながら転落したA氏。彼はたまたま不運に見舞われたのか。結論から言えば、違う。「たとえ高学歴であろうと、同様の事態に陥る可能性は誰にでもある」と館山ダルクの十枝晃太郎代表は強調する。

 厚生労働省が2013年に実施した調査によれば、全国アルコール依存症の患者数は推計109万人で、10年で29万人増加した。その数は今も増加傾向にあり、現在は日本の飲酒人口約6000万人のうち230万人はアルコール依存症患者との試算もある。そして、その主なきっかけがA氏のような「仕事のストレス」(十枝代表)だ。

 職場のストレスをアルコールで解消する人は昔からどこの会社にもいた。それが気分転換にとどまらず、依存症になるまでエスカレートする人が増えている背景には、昭和から平成にかけて、とりわけ大卒ホワイトカラー職場で進んだ就業環境の変化がありそうだ。

日経ビジネス2019年8月12日号 30~33ページより