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2020年の大統領選でトランプ氏が再選するのか、はたまた民主党の候補が当選を勝ち取るのか。対中政策で両党が一枚岩である以上、海外への厳しい態度は引き継がれるとみるべきだ。保護主義に傾く米国で日本企業はどう生き抜くべきか、実例を紹介する。

米国や地元に貢献するとともに、それを伝える努力も欠かせない
1トヨタ自動車の豊田章男社長は首都ワシントンのエコノミッククラブで登壇。「米国でクルマを作り続ける」と語った。2ホンダはミシガン大学キャンパス内の自動運転車実験施設「Mシティ」にゼネラル・モーターズなどとともに参加している。31982年、ホンダは日系メーカーとしては他社に先駆けて、オハイオ州メアリーズビルで米国生産を開始した。4ホンダはメアリーズビル市と連携し、カメラやセンサーなどで危険を事前に知らせるスマート交差点の実証実験をしている。5メアリーズビルに掲げられているスマート交差点の説明。「初めて社会実装された」との文言が協力関係の深さを物語る(写真=1:Tom Brenner/Getty Images、2・3:Bloomberg/Getty Images)

 「ロビイング」と言うと、日本では政治に取り入るようなイメージがあり、印象がいいとは言えない。一方で米国では憲法修正第1条ですべての企業や団体、個人が平等に持つ権利として認められている。企業市民として米国で生きるなら、日本企業も臆せず政府にモノを言い、米社会の一員として貢献していくことが欠かせない。

 特にトランプ政権下ではその重要度が増す。ツイッターで「米国産業の破壊者」などと、いつ批判の矛先が向かってくるか分からないからだ。

 実際、トヨタ自動車はトランプ氏が大統領に就任した2017年1月、ツイッターで「米国で売る自動車を作る工場をメキシコに建設しようとしている。あり得ない」と名指しで攻撃された。トヨタはすぐ「メキシコの工場建設で米国の雇用は減らない」と反応して事なきを得たが、放っておけば命取りになる可能性もあった。

 好景気が続く米国でいかに事業を伸ばすのか。トランプ政権の米国でしたたかに生き抜く企業の事例を紹介する。

 「自動車に追加関税が課されれば、私たちの雇用はこれだけ減ります」

 19年4月のある日、100人を超える一団がワシントンのキャピトルヒル(議会)を訪れた。トヨタ自動車が実施している恒例の「フライイン(Fly-in)」である。

 トヨタ工場の米国人工場長などが全米から集結し、その年のトピックについて上院・下院議員らに正確な情報を届ける「理解活動の機会」(トヨタ)だ。今年は工場で働く従業員の手紙を持ち込み、米政府が準備を進める自動車への追加関税25%が実現されればどれだけ地元の従業員が被害を受けるかを生々しく伝えた。

 3月には豊田章男社長の姿もワシントンにあった(写真1)。エコノミッククラブに招かれて登壇したイベントで関税の議論について問われると、熱い口調でこう語った。「追加関税がどうなるかは分からないが、これだけは言える。トヨタが米国を去ることはない。米国でクルマを作り続ける」

 事あるごとに自社の立場を明確にし、経営トップはもちろん地元の従業員の生の声を政府に届ける。米国ではどの政権下でも重要なことだが、保護主義に傾倒するトランプ政権においては特に効果が期待できる。

日経ビジネス2019年7月29日号 34~39ページより