「存亡をかけた戦いだ」。米国内の対中強硬派が勢いを増している。経済成長により力をつけた中国を米国の覇権を脅かす存在と見ているためだ。一方で、中国を排除することは長期的に米国の衰退を招くと戸惑う人たちもいる。

2000年代後半から中国が迫ってきた
●米中のGDPの推移と国のトップ
2000年代後半から中国が迫ってきた<br><small>●米中のGDPの推移と国のトップ</small>
(写真左から=トランプ氏:ロイター/アフロ、Historical/Getty Images、Chip HIRES/Getty Images、South China Morning Post/Getty Images、Kyodo News/Getty Images、習近平氏:AP/アフロ)
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 「これはただの貿易戦争ではない。米国の存亡をかけた戦いだ」

 米鉄鋼大手ニューコアの元CEO(最高経営責任者)で、ドナルド・トランプ大統領の政権移行チームで貿易政策を担当したダン・ディミッコ氏は、日経ビジネスの取材に対し、激しい口調でこう語った。政権移行チーム時代の“同志”には、ロバート・ライトハイザー通商代表部代表やウィルバー・ロス商務長官がいる。対中関税の「生みの親」の一人でもある同氏は、なおもまくし立てた。

 「中国を世界貿易機関(WTO)に入れたら、世界の貿易ルールに従って他の国々と同じように振る舞うかと思ったらとんでもない。中国が2000年に1億トンだった粗鋼生産を15年に8億トンにまで増やしたから、世界の鉄鋼価格は崩壊したのだ。他人の市場は破壊するのに、自国の市場は開放しない。もうたくさんだ。関税をかけるしか米国を守る方法はない」

 米国の政治の中心地、ワシントンが今、怒りにも似た中国への敵対心に燃えている。20年の大統領選を前に様々な場面で意見をぶつからせる共和党と民主党も、こと中国政策に関しては意見が一致している。

 「今が中国をたたきのめす最後のチャンス。そう考える強硬派がトランプ氏の周囲も含めてワシントンに数多くいることは確かだ」。地政学リスクの分析を得意とするシンクタンク、ユーラシアグループで国際貿易アナリストを務めるジェフリー・ライト氏が明かす。

 「デカップリング(切り離し)」。強硬派の狙いは、中国からの輸入品に関税をかけたり米国からの輸出品を規制したりすることで、中国を世界経済から孤立させることにある。成功すれば、中国は自由貿易からの恩恵を受けられなくなり、経済力は落ちる。

 中国を経済面から追い込もうとしているのは、覇権を握るために不可欠な技術力にも直結しているためだ。

AIなどの新技術が国力を左右

 今年6月に米ロングビーチで開かれた世界的な画像認識の学会、CVPR。AI(人工知能)が人のように画像を認識する「コンピュータービジョン」と呼ぶテクノロジーの専門学会だ。同技術は、自動運転の実現や店舗の無人化などに欠かせない最先端領域。ここで中国の躍進が際立っている。

 CVPRでは、学会とはいえグーグルやフェイスブックなど企業による展示も目立つ。中国のネット大手、百度(バイドゥ)が推進する自動運転プラットフォーム「Apollo」に関する発表は、一日中人だかりができる人気だった。米国による禁輸制裁の渦中にある通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)のブースでも、論文のみの展示にもかかわらず、それを読み込もうとする技術者の行列ができていた。

 「1990年代の石油がそうであったように、今後はAIや自動運転、顔認識といった新技術領域が国力を左右するようになるだろう」。そうライト氏が指摘するように、次世代技術で他国の先を行くことが今後、強硬派の言う「国の存亡をかけた戦い」に勝つポイントになると考えられる。

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