塩を変える、試作品は200

 お菓子の定番で、リニューアルを繰り返してきたのがカルビーの「ポテトチップス」だ。シェア7割と市場を制しているが、湖池屋という個性的なライバルもいる。不断の努力で味を変えて対抗している。

使用する塩の産地などを細かく変えてきた
●カルビーのポテトチップスうすしお味の変遷
使用する塩の産地などを細かく変えてきた<br/ ><small>●カルビーのポテトチップスうすしお味の変遷</small>
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 「うすしお味」「コンソメパンチ」「のりしお」といった基幹商品は3年先を見据えながら味やパッケージの見直しを繰り返す。うすしお味の場合、1975年の発売以来、14回の変更を実施している。担当する御澤健一氏は「定番品はもともと変えられるポイントが少ないが、うすしおはとりわけ変更できることが限られる。そのなかでおいしくつくるために、繊細な取り組みをしている」と話す。

 味の要になる塩は、伯方の塩や沖縄・石垣島産、瀬戸内海産など、時代ごとに消費者の支持が集まるものを使ってきた。2019年6月のリニューアルでは健康志向の流れに沿うかたちで、うすしお味の塩分量を5%削減した。試作品は200パターンに及び、十数人で実際に食べながらレシピを決めた。

 怖いのは顧客の反応だ。塩味を変えると、定番を維持できなくなる可能性すらある。味わいを維持するために塩の粒の大きさを微妙に変更してきた。粒度が粗いと口溶けに時間がかかる分、塩気がすぐに感じられない。一方、細かい塩はすぐに口の中で溶けるため、塩味を感じやすい。詳細は企業秘密というが、塩はカルビーがこだわってきた味のポイントの一つだ。

 今回のリニューアルではパッケージでも大きな変更を施した。ポテトチップスは表面に塩があるため塩味を感じるが、カルビーによるとほかの食べ物と比べ塩分量が多いわけではない。商品によってはパッケージ表面に塩分量を明記した。御澤氏は「塩の量を知ってもらい、気軽に長く買ってもらいたい」と話す。

 ポテトチップスの開発を志望して入社した御澤氏は社歴20年のうち17年、ポテトチップスを担当するスペシャリストといえる存在だ。定番は売り上げ規模が大きいだけに、リニューアルにはプレッシャーを感じることもあるという。17年のコンソメパンチの変更作業では試行錯誤の末に「今の味を超えられない」という結論に達した。「24時間、ポテトチップスのことを考えている。トップメーカーである以上、新しいことに真っ先に取り組みたい」と御澤氏は話す。

<span class="fontBold">1962年に「ポテトチップス  のり塩」(左)を発売した湖池屋の市場シェアは2割だ</span>
1962年に「ポテトチップス のり塩」(左)を発売した湖池屋の市場シェアは2割だ
 

 味の決め手である塩を大切にしているのは湖池屋も同様だ。1962年に「ポテトチップス のり塩」を発売し、67年に日本で初めてポテトチップスの大量生産を始めた。「『ポテチ』の愛称とともに、のり塩が愛されてきた秘訣は『塩』にある」(同社)という。発売当時、ポテトチップスは米国からの輸入品のイメージが強かったが、のりを入れることで日本人の舌に合わせた。塩がその風味を際立たせている。

 「かんでいる間に口の中で塩味がどう広がり、舌に残るか、緻密に計算している。のりの風味との最適なバランスを求め、原料や配合の改良を重ねてきた」(同社)という。舶来品を日本人の繊細な味覚に合ったポテチへと進化させることで商品を浸透させていった。