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長く固定客を維持する定番も、中身を少しずつ変えないと消費者を飽きさせかねない。その一方で、「同じもの」を提供し続けることが価値につながる定番商品もある。だが「変えない」を貫く作業は変えること以上に手間がかかる。

ヤマハ発動機の人気車種「SR400」は、1978年発売の初代(右上)からほとんどデザインを変えていない。堀川氏(左)が開発を指揮し、2018年11月に発売した新型も、エンジンはいまだにキックで始動する(写真=左:廣瀬 貴礼)

 国産オートバイの代名詞──。バイク愛好家の間で、そんな呼び声が高いのが1978年にヤマハ発動機が発売した「SR400」だ。販売台数は年間およそ1000台。発売から40年以上を経た今も、中型バイクの販売台数で上位に入る。

 趣味の乗り物として購入する人が多い今のバイク市場では大排気量や高度な電子制御で快適な走りを実現したモデルが人気だ。排気量399㏄のSR400はその対極に位置する。余計な装備や装飾をそぎ落とした武骨でシンプル、古典的なデザイン。電子制御は最小限で、ほとんどのバイクがボタン一つで済むエンジンの始動すら、キックペダルを踏む「人力」に頼る。古色蒼然(そうぜん)とした製品が、なぜ多くのファンを引き付けるのか。

 「時流に抗ってもバイクの『本質的な価値』を追求している」。2018年11月に発売した新型SR400で開発プロジェクトリーダーを務めたヤマハ発動機の堀川誠氏は語る。SR400が誕生した1970年代後半はレーシングバイクを模した「レーサーレプリカ」ブームのただ中だった。当時としても古典的なこのバイクは、速く走ることがもてはやされる風潮に対するアンチテーゼだった。「機械の温もりを感じながら日常の速度域で、いかに心地よく軽快な走りを楽しめるか」(堀川氏)。SR400が目指したのは、そんな成熟したバイク像。以来40年、ほとんど変わらないシルエットを保っている。

 時代の変化に応じて、新色を投入したり、装備の一部を変更したりするリニューアルも数年おきに重ねてきた。一方でブランドのアイデンティティーに関わる駆動装置や意匠は、頑ななまでに守り抜いた。クラシカルな空冷単気筒エンジンを露出したネイキッドスタイルを貫き、鉄製フェンダー(泥よけ)など製造や加工に手間とコストのかかる部材も継承している。

 新型車の開発過程は「変えないための技術開発」の連続だという。例えばガラスレンズのヘッドライト。一般的な樹脂製への変更も検討したが、質感が変わるためガラスにこだわった。現在の保安基準に適合するためにはレンズの構造を見直し配光性能を高める必要があった。ガラスは樹脂のような細かい成形が難しい。照明を手掛ける小糸製作所と協力して試作を重ね、「最新のガラスレンズ」の開発にこぎ着けた。