大手企業がオープンイノベーションの拠点作りに精を出す。各社が競い合うようにしゃれた「箱もの」を造るのは、日本の産業界の危機感の表れでもある。

「よい立木は切らずによけて建てよ」。日立製作所の創業者、小平浪平氏が残した言葉を今も受け継ぐ場所が東京都国分寺市にある。1942年設立の日立の中央研究所。武蔵野台地の原生林に囲まれた静かな環境はまさに「象牙の塔」の雰囲気だ。日立はここから国産初の大型計算機や、世界トップシェアを獲得した半導体メモリーのDRAMなどを生み出した。「技術の日立」を象徴する場所といえる。
そんな中央研究所の敷地内に今春、新施設がオープンした。サッカー場ほどの広さの土地に建つ地上4階建ての「協創棟」。外部の研究者や顧客を招いて日立の研究者と議論したり、互いに技術を持ち寄って実際にモノづくりを試したりするのが狙いだ。日立は周辺の既存施設と合わせたこの場所を「協創の森」と名付けた。CTO(最高技術責任者)を務める鈴木教洋執行役常務は、「ここで顧客と一緒になってイノベーションを生み出したい。研究者にもその意識を持ってもらう」と強調する。
外部の技術やアイデアも生かしてイノベーションを生み出そうという「オープンイノベーション」。2003年、当時、米ハーバード大学経営大学院で教壇に立っていたヘンリー・チェスブロウ氏が提唱したこの概念を取り入れる日本企業が増えてきた。外部と連携することで、開発の期間短縮やコスト削減につなげるのが狙い。自社だけでは生み出せない成果を得られるのでは、という期待も膨らむ。
金融機関や商社、鉄道会社も
日立は「技術の日立」を象徴する中央研究所を外部に開放することで、オープンイノベーションを促すことにしたが、外部と連携するために新たな拠点を設ける企業は多い。下図に示したのはその一例。業種も電機や自動車、機械などの製造業にとどまらず、金融機関や商社、鉄道会社など幅広い。オープンイノベーションの考え方は新たなサービスを立ち上げる上でも役に立つからだ。
各社の拠点をのぞくと、いずれも社内外の人たちが議論を深めやすいようにソファを置くなどサロンのようなしゃれた雰囲気だ。三井不動産や三菱地所などは、こうした場を貸し出すビジネスを手掛けるほどだ。スタートアップや研究者など外部の多様な人材を招いて、新しいアイデアを話し合うイベントを開く場としても使われる。
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