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最貧都市から生まれたユニコーン企業。背景には政府の周到な支援があった。BATを生み出した国家資本主義はさらに洗練され、国内産業の成長を加速させる。ただし、国際ルールとの違いも大きく、海外進出においては課題に直面しつつある。

 中国南西部にある貴州省。少数民族、苗族の集落が点在する風光明媚な省として知られるが、めぼしい産業は観光や名物の茅台酒ぐらいだった。1人当たりGDP(域内総生産)は中国の中でも最低レベルで長らく最貧地域とされてきたこの地に今、異変が起きている。省都・貴陽市では高層ビルの建設が急ピッチで進み、IT産業が急速に集積しつつあるのだ。

 民衆の支持を重視する習近平国家主席にとり「貧困撲滅」は重要政策の一つ。貴陽の発展は偶然ではなく、中国政府が仕掛けたものだ。

 キーワードは「ビッグデータ」だ。標高が高い貴陽は気温が低く、サーバーの冷却が必要なデータセンターの建設に向く。中国政府は2016年、貴州省を国内初の「国家ビッグデータ総合試験区」として認めた。

 産業蓄積に乏しい場所で起きる「リープフロッグ(カエル跳び)」現象。過去のしがらみにとらわれることがない点を逆手にとり、最先端の技術やシステムを一足飛びに実現する。中国政府は貧困政策とビッグデータをリンクさせ、リープフロッグを意図的に生み出そうとしている。

 今年5月下旬には5回目となる「中国国際ビッグデータ産業博覧会」が開催され、習主席が「デジタル経済が発展する機会をほかの国々と共有する」とのメッセージを寄せた。

天津市内の各種公共インフラの情報が一覧できる大スクリーン(上)。テンセントはビッグデータ産業育成にかける貴州にデータセンターを建設している(写真=右下:VCG/Getty Images)

 中国を一党支配する中国共産党が明確な方針を掲げている時、中国でビジネスを行う企業がそれに乗らない理由はない。これまで同博覧会にはアリババ集団の馬雲(ジャック・マー)氏や騰訊控股(テンセント)の馬化騰(ポニー・マー)氏、百度(バイドゥ)の李彦宏(ロビン・リー)氏など業界の重鎮がこぞって出席。それぞれデータセンターを建設する。米アップルや米マイクロソフトなども貴陽に大規模データセンターを設けた。

 2015年に設立された中国初の「貴陽ビッグデータ交易所」は、天気や工業、金融などに関する4000種類以上のデータが取引可能。データ量は150ペタ(ペタは1000兆)バイト以上という。

日経ビジネス2019年7月1日号 36~41ページより