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「BAT」に代表される中国IT(情報技術)各社がこぞって隣国日本に上陸している。14億の人民を相手に磨いた技術が、動画の視聴習慣からタクシーの乗り方まで変える。懸念は本国の諜報機関から顧客データを求められたとき。各社はこの要請にどう応える。

中国で圧倒的シェアを持つ滴滴出行のライドシェアアプリ。日本ではタクシーを呼び出せる(写真=的野 弘路)

 ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長は中国のIT企業にご執心だ。傘下のファンドの投資先にはアリババ集団や滴滴出行など有力企業がずらりと並ぶ。

 5月9日、東京都内で決算説明会に臨んだ孫氏は、自ら発掘し、世界的企業に成長したアリババについて、「保有株の時価総額は13兆円になった」と満足げに語った。アリババが先駆けとなったQRコードを用いたスマートフォン決済にも言及。「中国がどの国よりも進んでいる。米国ですら取り残されている」とした。

 海外の進んだITサービスを日本にいち早く導入する孫氏の「タイムマシン経営」のお手本は、米国から中国へと移りつつあるようだ。SBGのグループ会社が昨秋から提供するスマホ決済「ペイペイ」はアリババの「アリペイ」と仕組みは同じ。14億人の中国市場で磨かれた技術やサービスを日本に移植する動きを加速させている。

14億人のデータでは飽き足りず

 昨年9月には、自家用車に客を乗せる中国ライドシェア最大手、滴滴とソフトバンクが組んで、日本でサービスを始めた。現状では日本の法制度に合わせて、タクシーを呼ぶ配車アプリを提供する。東京、大阪、北海道などのタクシー会社と提携し、来年3月までに全国13都市に営業地域を広げる。

 百度(バイドゥ)、アリババ、騰訊控股(テンセント)の頭文字を取って「BAT(バット)」と称される3巨人を筆頭に、中国IT各社が海外事業を強化し、「IT中華圏」を押し広げている。

 SBGと組み、法制度の整っていない日本市場に前のめりで参入した滴滴はその象徴といえる。アリババ傘下とテンセント傘下のライドシェア2社が2015年に合併し、中国市場で圧倒的シェアを握る滴滴が誕生した。その後、百度も資本参加した滴滴は、その余勢を駆って海外進出を加速させている。

中国のITサービスは暮らしに浸透している
●日本でサービスを提供する主な中国IT企業
日経ビジネス2019年7月1日号 30~33ページより