乗客の6割は日本人

 訪日中国人の平均滞在日数は6日程度。これに対して日本の居住者なら基本的に1年中タクシーを呼んでくれる可能性がある。しかも母数となる日本の人口は1億2000万人だ。潜在需要として訪日中国人を圧倒する。

 滴滴日本法人の菅野圭吾副社長は、「今年のゴールデンウイークに京都で当社のアプリを使った乗客のうち、中国人は4割だったのに対して、6割を日本人が占めた」と言う。テレビCMを流し、期間限定で初乗りを無料にするなど、あの手この手で日本人の利用者を増やそうとしている。

 日本の消費者は無意識に中国のサービスを受け入れ始めている。「中国発だとか、あまり気にしたことがない」と話す大阪市在住の男性会社員(26)は、中国のゲーム大手、網易(ネットイース)が開発したスマホ向けの人気ゲーム「荒野行動」にのめりこんでいる。日中のコンテンツ業界に詳しいIP FORWARD法律特許事務所の分部悠介CEO(最高経営責任者)は「中国製ゲームの品質は向上している」と話す。

<span class="fontBold">過去のヒット作に頼ってマンネリ化が進む日本製のスマホゲームから、中国発の「荒野行動」(左)がシェアを奪っている</span>
過去のヒット作に頼ってマンネリ化が進む日本製のスマホゲームから、中国発の「荒野行動」(左)がシェアを奪っている
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 「品質」に加え「安さ」が中国のITサービスの強さだ。ゲーム会社向けのソフト配信プラットフォームを運営するDMMゲームズは以前から利用しているアマゾンなどのクラウドに加えて今春、アリババのクラウドも利用できるようにした。蘇広宇・中国事業本部長は「クラウドの利用料を抑えたいゲーム会社の要望に応えた」と言う。

 独自の魅力で日本人の心をつかんだのが、北京字節跳動科技(バイトダンス)の日本法人が提供する「TikTok」。15秒の動画を投稿するスマホアプリだ。17年末に日本で本格的にサービスを始めると女子高校生の間で流行し、18年12月には月間利用者が950万人に達した。同月、TikTokを使って「午後の紅茶」のプロモーションを実施したキリンビバレッジ・マーケティング部の加藤麻里子部長代理は、「業界平均を上回る販売実績を達成できた」と言う。

<span class="fontBold">キリンビバレッジは昨年12月、TikTokで人気の西村歩乃果さん(左)らと組んで「午後の紅茶」を宣伝した</span>
キリンビバレッジは昨年12月、TikTokで人気の西村歩乃果さん(左)らと組んで「午後の紅茶」を宣伝した
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 1本の動画が15秒と短いにもかかわらず、TikTokの1日の平均視聴時間は42分に上る。単純計算で168本もの動画を見ていることになる。

 「やみつき」になる秘密は、データ分析にある。バイトダンス日本法人の後藤隆之助ディレクターは、「利用者が『いいね!』を押した動画や、途中で視聴をやめた動画などのデータを機械学習技術で分析して、個人の人格を推測している」と言う。人格に合わせて、その人が好むであろう動画を表示することで、気づけば42分間も見ている状況を生み出している。

 「利用者は当初の10代から現在は10~30代に広がった」(後藤氏)。この年齢層も機械学習で推測している。データ分析によって、本人が開示していない個人情報まで高い確度で割り出す。

 気になるのはデータの行方だろう。アリババは以前、日本で日本人を対象にした決済事業も計画していたが、金融情報が中国に渡ることを懸念した日本政府が17年に待ったをかけた。

 中国で同年に国家情報法が施行されて以降、中国の企業や個人は当局の諜報活動に協力しなければならなくなったことも日本政府を刺激した。中国企業が集めたデータが当局の手に渡り、監視など、国益に反するかたちで活用される恐れは否定できない。

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