中国IT企業の強みは何といっても、約14億人という世界一の人口を抱える母国市場の規模だ。百度の検索サービスなどを利用している携帯端末は月10億台以上、アリババが運営する通販サイトの年間利用者は6億人以上、テンセントが提供するチャットアプリの利用者は10億人以上……。

 その大半は中国国内とはいえ、規模の面で「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)」に代表される米IT大手に肩を並べ得る勢力はBATか、その後に続く「ネクストBAT」しか見当たらない。

 データは20世紀の石油に続く「21世紀の新たな資源」と言われるようになった。SNS(交流サイト)や検索など無料のサービスを呼び水に利用者を獲得し、膨大なデータを得る。それをAI(人工知能)で分析して「需要予測」や「顧客と商品のマッチング」といった価値に替え、決済手数料や広告などの各種サービスを通じて利益を上げる。それがBATが確立した収益モデルだ。

 個々のビジネスモデルはGAFAに近い。ただその規模の大きさ、さらに技術革新と新たなサービスを生み出す力が傑出していることは時価総額が表している。孫氏が見いだしたアリババの時価総額は4166億ドル(約45兆円)と、SBGの4.5倍に達した。GAFAの評価額に接近しているIT企業はアリババやテンセントぐらいだ。

 SBGなど世界中の投資マネーを吸収した中国勢は、14億人で頭打ちとなる自国市場にとどまることなく、貪欲に世界を目指している。滴滴も日本に加え、メキシコ、ブラジル、オーストラリアなどに進出。利用者は世界で5億5000万人、運転手は3100万人、年間乗車数は100億回に到達した。乗客と運転手の端末から収集する位置情報は1日に70テラ(テラは1兆)バイトに上る。機械学習で15分後の需要を予測し、全体的に最も乗車率が高まるように乗客と車両をマッチングしている。

 推計5兆5000億円にも上る滴滴の評価額は収集する膨大な位置情報の応用範囲の広さを反映している。将来は自動運転技術や信号機の制御システムと結びつき、都市全体の人と物の流れを管理する構想を持つ。自動車産業と都市交通を一変させる可能性を秘めるとあって、トヨタ自動車など世界的な企業が連携しようと滴滴の下に集まる。

訪日客が起爆剤に

 配車や決済など中国のITサービスを世界に普及させる役割を担っているのが、18年には延べ1億5000万人に達した中国人の海外旅行者だ。

 うち838万人が日本を訪れた。国別の訪日外国人では最も多く、日本企業にとって彼らの購買力は魅力的だ。セブン-イレブン・ジャパンは7月1日から全国のコンビニ2万900店で、アリペイやテンセントの「ウィーチャットペイ」に対応する。国内でアリペイを導入する店舗は昨年8月時点で5万店。これが今年3月には30万店と、猛烈な勢いで伸びている。

 日本のキャッシュレス決済は、「Suica」などの交通系カードに使われる近距離無線技術が先行していた。一方、中国ではQRコードを使った決済が瞬く間に中小店舗にまで広がった。店舗ではQRコードを表示した紙やスマホを用意するだけで済み、専用端末は不要だ。当初、日本では中国観光客向けが主流だった中国発のスマホ決済は、今ではLINEなどIT各社やメガバンクが競い合う分野となった。

 町の風景も変わり始めた。観光客に人気の東京・台東の浅草寺。雷門の前では、人力車に乗る前にスマホで支払いを済ませる中国人の姿が見受けられる。車夫を束ねる、えびす屋浅草店の梶原浩介所長は、「昨年アリペイに対応した。導入してよかった」と言う。

<span class="fontBold">人力車の運営会社、えびす屋浅草店で所長を務める梶原浩介氏(左から2人目)は「アリペイを導入したことで、中国人客に喜んでもらえた」と満足げだ</span>
人力車の運営会社、えびす屋浅草店で所長を務める梶原浩介氏(左から2人目)は「アリペイを導入したことで、中国人客に喜んでもらえた」と満足げだ

 日本でアリペイの普及に取り組むアントフィナンシャルジャパンの田中豊人COO(最高執行責任者)は、「中国人客の受け入れ態勢を整え、地域経済の活性化に貢献する」と意気込む。

 中国IT企業が中国人観光客の先に見据えるのが日本人の需要だ。東京や大阪などで滴滴と組む第一交通産業の小田典史・企画調整室長は、「中国人の乗車が増えると期待している」と語るが、滴滴にとって中国人客は市場開拓の入り口にすぎない。

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