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現状に先がないからと、本業に並行してとりあえず新しいことに取り組む。そんな姿勢では“新規事業という病”は重症化し、現場は疲弊する。本気で新しいことに取り組むには、経営陣の覚悟が必要だ。

 「流行のサービスに手を出す」「存在しないシナジー効果を求める」「必要以上に過去を否定する」──。そんな迷走にはまらないためにまず必要なのは、三越伊勢丹やメルカリのように、本当に新しいことが会社にとって、今、最優先すべき事項なのか再考することだ。

 もちろん、中には、技術革新などで本業に正真正銘未来がない産業もある。そんな企業は新しいことに取り組むしかない。

 そのためには「やってはいけないこと」と「やるべきこと」がある。やってはいけないことは、社員に既存事業と新規事業を兼務させることだ。人手不足の社内で新規事業に専任できる人材を確保するのは難しいが、「兼務では成功する見込みは薄くなる」とコマースデザインの坂本代表は指摘する。

「兼務で創造」は難しい

 兼務で新規事業に取り組むリスクは、三越伊勢丹が新規プロジェクトに忙殺されて中期経営計画の目標を達成できなかったように、既存事業がおろそかになってしまうことだ。これまでの経験から事業目標が立てやすい既存事業に対して、新規事業は手探りで道筋を探す働き方になる。「事業を開発する創造的な仕事には、じっくりと取り組む『ディープワーク』が重要。兼務で良い成果が出るとは思えない」と才流の栗原社長も話す。

 次にやるべきことは、新規事業の専任組織を作ったら、社長の直轄組織にするか、専門の別会社を設立するなどして、ある種の“特権”を与えること。既存事業が新規事業の抵抗勢力になることを防ぐためだ。

 例えば、小売業のEC化は苦戦しがち。EC化が進めば、店舗は“ショールーム”になり、売り上げが落ちかねない。その結果、店舗側が、アプリを店内で使いやすくするといったEC化対応に非協力的になる場合があるからだ。

 その点、ニトリホールディングスは、EC化が優先事業の一つであることを経営側が明確に打ち出している。4月8日の決算説明会では、白井俊之社長が「店舗で買うかECで買うかは、お客様に選んでいただければいい」という主旨の発言をした。こうした経営層の後押しもあって、17年にはアプリ内のバーコードリーダーを店舗商品にかざし、購入できる体制などが本格的に整い、アプリの会員数は300万人を突破。19年2月期のEC売上高は389億円と前期比27%増となった。

ニトリは経営陣自らECの重要性を説くことにより、店舗との対立を超える。ECアプリの会員数は300万人を突破した(写真=的野 弘路)
日経ビジネス2019年6月24日号 46~47ページより