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流行に手を出す、シナジー効果を過剰評価する、過去を安易に否定する──。新しいことが「目的」になってしまった企業の行動は、そんな3パターンに分類できる。いかに本業が危機でも、こんな新規事業・新サービスをやってはいけない。

 注目の新分野として多くの企業が参入するシェアリングサービス。だが、連日のように各社が新サービスを発表する裏で、撤退も相次いでいる。自転車シェアはその典型だ。

撤退相次ぐ「シェアリング」
中国ではシェア用の自転車が故障や放置などで大量に廃棄され、問題になっている(写真=共同通信)

 街中に設置された自転車を好きな場所で借り、好きな場所で返せる仕組みで、中国から世界へ広がり、2017年の段階ではDMMも参入を検討していた。

 が、18年に入り、業界のけん引役的な存在である中国の「摩拝単車」を買収した中国ネット出前サービスの美団点評が、海外の自転車シェア事業を大幅に縮小。美団の18年12月期の業績は2兆円近い最終赤字に沈んだ。競合の「ofo(オッフォ)」も、中国事業の経営不振を理由に日本から半年で撤退した。利用者が増えるほど自転車を町中に配置するための手間やコストが増え、採算が合わなかったという。

 ofoは日本で大津市や和歌山市などと自転車シェアを展開していたが、いずれも現在はサービスを停止。DMMも既に参入を断念している。

 撤退事例が増えているシェアサービスは、自転車シェアだけではない。自宅などの駐車場を貸し出せる駐車場シェアでは、楽天(楽天パーキング)が18年5月、リクルートホールディングス(SUUMOドライブ)が6月にそれぞれ撤退を決定。米国から上陸したネクタイなどのレンタルサービス「フレッシュネック」も、昨年末には日本での事業を終了していた。

もうかる商品は相当限定的

 物は「所有」ではなく「共有」する時代へ──。そんな合言葉を追い風にこの10年、市場を急拡大させてきたシェアビジネス。古くは、1940年代にスイスでカーシェアが生まれていたとされる。

 日本では2002年にオリックスが初めて、やはりカーシェアを事業化。その後、インターネットが普及し「共有者」をマッチングする手間やコストが激減すると、シェアする対象はオフィスや住居、空きスペース、駐車場、自転車、ファッションなどへ拡大した。矢野経済研究所によると、17年度の国内シェアリングエコノミーサービス市場(事業者売上高ベース)は前年度比3割増の716億6000万円。20年度には1000億円突破が見込まれている。

 しかし、ブランドバッグのシェア事業を自ら運営するラクサス・テクノロジーズ(広島市)の児玉昇司社長は「シェアリングで利益を出せる商材は、実は相当限られる」と指摘する。実際、同社もかつて洋服のシェアサービスを検討。倉庫を借り、貸し出す洋服を仕入れるところまで事業を進め、直前になって撤退した経験があるという。

 原理的には「買うより他人と共有した方がいい」と思う人がいるモノであれば、どんな商品でもシェアは可能だ。しかしニーズはあっても、「買うより安い料金」でないと消費者はなかなか利用しない。このため、商品を保管するコストや手間が当初の想定以上にかかれば、ビジネスとして成立しなくなる。その意味では、シェアリングに本当に向くのは、クルマや不動産など「一生のうちに買う回数が限られる高価格帯商品」だ。

 「それでも『新しいことをやらなければならない』という熱にいったん社内が浮かされてしまうと、『とりあえずやってみよう』という空気になりがち」と児玉社長は話す。

 本来、新しいことは会社を成長させる「手段」なのに、新しいことをやることが「目的」になっている──。そんな企業の行動パターンの一つは、何かと「流行」に乗ってしまうことだ。

 「シェアリング」のような世間で騒がれている注目の新サービスであっても、あらゆる商品に適合し、顧客に受け入れられるとは限らない。にもかかわらず、「今のままではダメ。何でもいいから新しいことをやれ」との社内の声に押され事業化してしまい、撤退もせず現場を疲弊させてしまう。

 逆に、流行に乗りかけたものの、自社商品との不適合にいち早く気づきすぐに引き返したのがAOKI。傷口が広がりかけたのは「スーツのサブスクリプション」だ。

 サービスを開始したのは18年4月。最も安い月額7800円のコースでは、ジャケットとスラックスに加えて、ワイシャツとネクタイが毎月届く。追加で5000円を払えば借り放題にグレードアップすることも可能だ。スーツの購入やクリーニングなどの手間を省くことで、若年層を中心とした新規顧客の獲得を狙った。だが、18年11月、開始後わずか半年でサービスを終了することになった。

スーツ「サブスク」、なぜ中止
AOKIはスーツのサブスクを始めたが半年で撤退した。既存の顧客とサブスクの利用者が重なってしまったのも撤退の一因と考えられる
日経ビジネス2019年6月24日号 32~45ページより