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新規事業や新サービスばかりやり続けると、経営に悪影響が出る──。多くの企業が新しいことにまい進する中、そんな考えを持つ企業が現れ始めた。新しいことはあくまで成長の「手段」。それが「目的」になると経営の弊害になる。

新しいことへの取り組みを評価する人事評価制度により、物産展など催事の企画といった新規プロジェクトが林立。本業がおろそかになってしまった(写真=毎日新聞社/アフロ)

 三越伊勢丹ホールディングス(HD)が“最悪の状態”を脱しつつある。2018年3月期には構造改革に伴う特別損失の計上などで8期ぶりの最終赤字に陥った。が、19年3月期は134億円の最終黒字まで回復。本業のもうけを示す営業利益も前期比19.7%増の292億円となった。地方では相変わらず苦戦が続くなど課題は残るものの、反撃の体制は整いつつある。

 復調の要因は、伊勢丹新宿本店など都心の旗艦3店舗の好調とされるが、それだけではない。経営に悪影響が出るまで新規事業や新サービスばかりやり続ける──。そんな“新しいことやらなきゃ症候群”を2年前に早期発見し“治療”したことも大きい。

200近いプロジェクトが林立

 「新規プロジェクトばかりに忙殺されていて、本業がおろそかになってしまった」。17年4月、突然の交代劇で大西洋・前社長に代わりトップに就任した杉江俊彦社長は決算会見の席で、最終年度を迎えた中期経営計画が目標未達に終わった原因をこう説明した。

 大西前社長の下、多角化を起爆剤に活路を開こうとしていた同社。16年以降、エステ会社や旅行会社を買収したほか飲食業にも進出し、一時は200近くの新規プロジェクトが林立する状況だったという。

(写真=朝日新聞社)

 百貨店事業の現場でも「コラボ商品の開発」や「物産展の開催」といった本業以外の仕事が増えた。こうした副業は売り上げ増には貢献しても赤字の場合が少なくない。それでも「本業以外の何かを提案すればそれだけで人事評価が上がる雰囲気があった」と、新宿本店の社員は振り返る。実際、当時の人事考課表には「何でもいいから『新しいことをやる』という趣旨の項目があった」(杉江社長)という。

 同社がここまで新しいことにまい進したのは、「とにかく今のままでは会社はダメになる」という危機感が社内を覆っていたからだ。

 百貨店は1960年代から80年代にかけて最も発展したが、そのけん引役は衣類と化粧品販売。衣類は90年代以降、ユニクロのような低価格衣料チェーンなど新たな競合の出現で勢いを失い、化粧品も2000年代に入りドラッグストアなどにその座を脅かされていく。そんな危機的状況の中、08年に三越と伊勢丹が統合し生まれたのが三越伊勢丹HD。かつて12兆円あった百貨店市場が18年には6兆円まで縮む中、新しいことで現状打開を図るのは自然の成り行きとも言えた。

 しかし、杉江社長は、挑戦のやりすぎがむしろ状況を悪化させていると判断。新規プロジェクトの多くを凍結する一方、伊勢丹松戸店など不採算店舗の整理や、夏冬セールの1~2週前倒し、三越日本橋本店の30年ぶりのリニューアルといった本業の収益力向上に力を入れた。今後も、がむしゃらに新規事業に取り組むのではなく、成長性の高い本業関連事業を中心に投資し、21年3月期には営業利益を統合後最大の400億円台に到達させたい考えだ。

日経ビジネス2019年6月24日号 30~31ページより