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形だけのガバナンス先進企業

 瀬戸氏は当初、ガバナンスに潮田氏が大きな影響力を及ぼしていることを容認していた節がある。かつて、「創業家かどうかは関係なく、取締役の役割は経営者を交代させること。潮田さんの姿勢は、まさにそれだ」と語っていた。

 ただし、それは正しい意思決定のプロセスが機能することが前提だった。LIXILは、社外取締役が半数以上を占める指名委員会が、取締役候補やCEOの後継計画を決める「指名委員会等設置会社」である。経営の「監督」と「執行」が明確に分かれ、株式会社の形態の中で最もガバナンスが利く体制とされる。だが、LIXILの実態は違った。

潮田氏の影響力が及ぶ会社に「株主」が挑む
●LIXILグループのガバナンス構造と株主の動き

 旧トステム出身のある幹部は、「(創業者の潮田)健次郎さんの思いを忠実に、早く実行する社員が評価されてきた。洋一郎さんは健次郎さんほど事業へのこだわりはないが、その社風は今も残り続けている」と打ち明ける。

 会社側と瀬戸氏側の取締役候補はともに、「潮田氏の影響力を排除する」と強調している。会社側は社外取締役から暫定CEOを選ぶと表明し、瀬戸氏は自らのCEO復帰に意欲を示す。

 6月4日、瀬戸氏ら株主提案者は東京地方裁判所に6月25日の定時総会の決議などをチェックする総会検査役の選任を申し立てた。定時総会は事実上の「政権選択の場」。LIXILの今後のガバナンスの行方を決定づけるものになる。

制約条件作る「忖度」を排除する
LIXILグループ取締役 前CEO 瀬戸 欣哉氏(写真=的野 弘路)

 なぜ私が今回、個人としてここまで会社と戦っているのか。それはこれまで、LIXILグループで働く皆さんに、「Do The Right Thing(正しいことをしよう)」と言ってきたのに、今回の問題を見過ごしたら、言ってきたことがウソになるからだ。

 経営は、全ての選択肢の中から一番いいものを選んで初めて、それなりの結果が出る。日本的な忖度の問題は、選択肢を限定する制約条件を作ってしまうことだ。特に、経営の一線から離れた昔の実力者が権力を握っている場合は、今の現場を知らないから良い結果を出せる蓋然性が少ない。

 失敗しても自分で立て直せるのならいいが、取り巻きの人間が忖度して「うまくいっています」と報告する状況では、軌道修正が遅れる。実際、ペルマスティリーザの場合もそうだった。

 会社側の取締役候補は全員新任で、その中の社外取締役から暫定CEOを選ぶという。兼職が多い方もいて、本気でLIXILの経営に時間を割けるのだろうか。大事な会社を実験台にされてはたまらない。


指名委員会、運用間違えば暴走
コニカミノルタ取締役会議長 松崎 正年氏(写真=稲垣 純也)

 LIXILグループが採用している「指名委員会等設置会社」という体制は、どんな力のある人でも社外取締役にチェックされるというメリットがある。ただし、どんな人を社外取締役に選ぶかが重要で、数をそろえたり、多様性に配慮したりするだけでは機能しない。逆に、運用を間違えれば、権限が大きいだけに指名委員会は暴走する。それが最大のデメリットで、今回の件(瀬戸氏解任の経緯)はそれを示している。

 会社にとって一番大切なことは、持続的な成長をすることだ。そのためにはトップがチェックされる仕組みが欠かせない。人によっては軌道を外す場合があり、そんな時に「殿、ちょっとお待ちください」と止めるのが社外取締役の役割だ。今回のLIXILのように創業家が影響力を発揮しようとしても、ちゃんとした社外取締役がいればここまでの騒動にならなかったはずである。

 社外取締役は、常に「職業的懐疑心」を持たなければならない。LIXILの場合、創業家の影響は明らかに注意が必要で、それを排除するのが私の役目だ。

日経ビジネス2019年6月17日号 28~33ページより