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「会長案件だ。文句あるか」

 機関投資家や上級執行役はなぜ潮田氏への反発を強めるのか。それは、潮田氏がLIXIL株の約3%しか保有していないのに、会社のオーナーであるかのごとく振る舞い、合理的な経営判断を妨げてきたとみているからだ。

 その象徴が、潮田氏が検討していたMBO(経営陣が参加する買収)とシンガポールへの本社移転だ。西村あさひ法律事務所が作成した瀬戸氏解任の経緯に関する調査報告書には、開示文書ではカットされた部分に、この案を巡り両氏が対立した様子が記されている。

 潮田氏によるシンガポールへの本社移転構想は、社内の幹部や金融機関のM&A(合併・買収)担当者らにとっては、半ば公然の秘密だった。日本の将来に懐疑的な潮田氏はシンガポールに移住しており、本社移転を「潮田氏の相続税対策ではないか」と周囲は見ていた。売上高の約7割を国内に依存する同社にとって、移転構想は合理性に乏しく国内の取引先などの反発も必至だ。

 それでも潮田氏は本気だったようだ。昨年8月、他の取締役メンバーとともにシンガポール証券取引所などを訪問している。関係者の一人は、「取締役とCEOから退いても、潮田さんは諦めないだろう。シンガポール系や中国系なども含め、買収資金を出そうというファンドはいくらでもいる」と話す。

 潮田氏が自ら辞任する理由として挙げた業績悪化の主因、ペルマをはじめとする多くのM&Aも、潮田氏が主導したものだ。ある関係者は「砂糖に群がるアリのごとく内外の投資銀行が手数料目当てで潮田会長に様々な案件を持ち込んでいた。投資を正当化する資料作りに憤慨する社員もいたが、やがて罪悪感は薄れ、『これは会長案件だ。文句あるのか』『俺の仕事は買収することだ。止められるなら止めてみろ』とまで言う者もいた」という。

 「とにかく買うことが目的となり、買収後にバッドニュースが出ても積極的に社内で共有されることはなく、現地の放漫経営を許してきた」(LIXIL幹部)。ペルマの巨額損失はその結果だ。

 瀬戸氏はこうした状況に社長就任当初から警鐘を鳴らし、16年5月ごろからペルマ売却について取締役会メンバーに非公式に打診し始めている。だが、潮田氏と旧トステム出身の取締役は瀬戸氏の提案に反発。最終的には社外取締役が売却プロセスの開始に理解を示し、中国企業への売却という形で瀬戸氏の考えは実行されることになった。

 瀬戸氏の不運は18年10月中旬、米当局がペルマの中国企業への売却を承認しなかったことだ。瀬戸氏解任が10月31日。11月27日にペルマの売却断念が発表された。そもそも潮田氏はペルマを中核事業として育てたいという考えを当初から示しており、辞任会見でも「宝石を石ころにした」と瀬戸氏を批判し、その執着ぶりを露呈している。

経営方針を巡る深刻な対立があった
●潮田氏と瀬戸氏の主な対立構図
(写真=潮田氏・瀬戸氏:的野 弘路)
日経ビジネス2019年6月17日号 28~33ページより