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会社側が解任請求を「無効化」

 臨時総会を突き付けられた会社側は対応を迫られる。総会の会場は5月下旬に押さえた。だがこのまま臨時総会を開くわけにはいかない。投資家対策のアドバイザーを中心に票読みを進めると、投資家連合に分があったからだ。

 4月18日、会社側は潮田氏が5月20日に取締役を辞任することを発表した。自ら辞することで、臨時総会で解任されることを回避した──。投資家連合や瀬戸氏らにはそう見えた。

 その頃、「潮田さんは辞める理由を探していた」とあるLIXIL幹部が明かす。潮田氏からすれば、理由もなく辞めてはガバナンス不全を自ら認めることになる。それだけは避けたかったはずだ。

 LIXILは潮田氏の辞任を発表したのと同じ日、業績の大幅下方修正を発表した。11年に買収したイタリアの建材子会社ペルマスティリーザの巨額損失が原因で、19年3月期、LIXILは522億円の最終赤字に沈んだ。

 「私の記憶の限り最大の赤字。一義的な責任はCEOだった瀬戸さんにある。ただ、任命したのは当時、指名委員会のメンバーで取締役会議長だった私。瀬戸さんを招いたのは取締役を続けてきた38年間で最大の失敗だった」

 潮田氏は自らの辞任の理由を任命責任だと説明した。潮田氏だけでなく、山梨氏も6月の定時株主総会で取締役を退任すると表明。臨時総会を開催する意義を失った投資家連合は5月9日、招集請求を取り下げるしかなかった。

 株主からの解任請求をかわした潮田氏と山梨氏。だが、社内にも瀬戸氏解任に対する不満がくすぶっていた。

 4月下旬。2カ月後の定時株主総会に諮る取締役候補を決める指名委員会宛に意見書が届いた。瀬戸氏解任後の潮田・山梨体制を痛烈に批判する内容だ。

 「潮田さんのビジョンは(中略)全てのステークホルダーにとっても有害」「山梨さんは常に潮田さんの考えに沿って仕事を執行」「山梨さんと仕事をする時に感じることは、決断をしてくれない、立場を常に変える、不誠実で不透明な経営姿勢」「山梨さんもしくは潮田さんの影響を受けた人間が経営することになれば、LIXIL Groupは遠からず経営不全で立ち行かなくなります」

 意見書を出したのは、上級執行役ら14人で構成される「ビジネスボード」のメンバーのうち10人。現場を取り仕切る幹部の多くが、潮田・山梨体制に不満を鬱積させていた。それは瀬戸氏が4月5日に定時総会向けに株主提案した、瀬戸氏自身を含む8人の次期取締役候補を暗に支持する内容ともいえた。

会社側「けんか両成敗」を主張

 この時の指名委員会の委員長は英経営者協会会長などを歴任した社外取締役のバーバラ・ジャッジ氏。瀬戸氏解任を決めた当時の指名委員の一人だが、瀬戸氏を支持する上級執行役や機関投資家らは瀬戸氏の株主提案を取り入れるのではといちるの望みをかけていた。ジャッジ氏自身、「定時総会後も取締役として残る意欲が満々だった」と複数の関係者は証言する。

 だが、5月13日、会社側が発表した取締役候補の中にジャッジ氏の名前はなかった。ジャッジ氏は記者会見に出席する予定だったが、代わりに現れた取締役の菊地義信氏は、「委員長はジャッジだが、日本語での微妙なニュアンスもあるので私から」と説明した。

 菊地氏は潮田氏と山梨氏がCEOとCOOに就き、指名委員から外れたのを機に、委員会のメンバーに入った一人。旧トステム創業者の潮田健次郎氏の時代から潮田氏を支えてきた人物だ。

 前日の指名委員会では激論が交わされたようだ。ジャッジ氏と菊地氏が候補者案で対立したとの見方もある。主導権争いに敗れたのか、関係者によるとジャッジ氏は指名委員会名での発表文書について、「これは私ではなく菊地氏が作った」と発言していたという。

 候補者リストからはジャッジ氏のみならず、全ての現任取締役が外れていた。菊地氏は「取締役を一新することが経営の健全化につながる」と強調したが、あるLIXIL幹部は「指名委員会の議論はどこかで『けんか両成敗』の考えが優勢になったのだろう」と推測する。

 こちらは現任取締役を外した。そちらも現任取締役は外れるべきだ──。瀬戸氏自身のほか伊奈氏、川本氏の現任取締役が候補に名を連ねる瀬戸氏側の提案を強烈にけん制した形だ。

 もっとも、会社側の取締役候補選びには急ごしらえ感が否めない。

 発表された候補は8人。その中に、瀬戸氏側候補である前最高裁判所判事の鬼丸かおる氏と、元あずさ監査法人副理事長の鈴木輝夫氏の名前があった。8人一括の選任を目指す瀬戸氏らは、これを「分断工作」と捉えた。

独自候補の数は8対8
●LIXILグループの定時株主総会に諮られる取締役候補

 実は発表前日の夜、瀬戸氏に会社側から、鬼丸氏と鈴木氏を候補にするから伝えてほしいというメールが届いている。「事前に承諾もなく連絡先も知らないとはあまりにも不誠実」。鬼丸氏と鈴木氏は猛抗議するも会社側は無視、最終的に「会社提案・株主提案」として招集通知に記載してしまう。

 さらに、発表後にコニカミノルタ取締役会議長の松崎正年氏、元米国務省のカート・キャンベル氏をバラバラと候補に追加している。「分断工作」の次は「多数派工作」か。会社側の取締役選定の経緯について、ジャッジ氏は「今期で取締役を退任するので取材には応じられない」と口を閉ざす。

日経ビジネス2019年6月17日号 28~33ページより