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突然の「解任」の通告

 昨年10月27日、イタリアに滞在中だった瀬戸氏に、一本の電話がかかってきた。「これまで話してきた通り、自分がやりたいので辞めてほしい」

 声の主は潮田氏。突然の「解任」の通告に瀬戸氏は「上半期の業績は悪かったが10月から業績は回復している。今辞めるのはあまりにも無責任だ」などと反論した。だが、潮田氏は「指名委員会の総意」だとして、最後は瀬戸氏が押し切られる形になった。

 潮田氏が言う「指名委員会の総意」なるものは“作り物”だった。

瀬戸氏の「解任」が発端
●LIXILグループのガバナンス騒動の経緯
(写真=瀬戸氏・潮田氏・右下:的野 弘路、中左:読売新聞/アフロ、ブラックロック:ロイター/アフロ)

 前日の10月26日に緊急招集された指名委員会。自身もメンバーの一人である潮田氏は、10月19日の会食で「潮田さんがCEOを務めるなら私はいつでも身を引く」という瀬戸氏の発言があったなどと説明。指名委員会は瀬戸氏のCEO解任と潮田氏自身のCEO就任、並びに当時、社外取締役で指名委員会委員長だった米マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の山梨広一氏のCOO(最高執行責任者)就任を決めた。

 本来なら、瀬戸氏の辞意を指名委員会として確認してしかるべきだが、そうした事実は見られない。潮田氏が瀬戸氏から聞いた「潮田氏がCEOを務めるなら身を引く」という発言が独り歩きし、最終的に10月31日の取締役会で瀬戸氏はCEOを解任されてしまう。

 瀬戸氏はこの発言について、「雇われの身である“プロ経営者”としての信条」として周囲に語っていた事実は認める。だが、中期経営計画をスタートしてから半年しかたっておらず、業績を根拠にした議論も、瀬戸氏本人への辞意の確認も徹底されないまま、指名委員会は瀬戸氏解任を決めてしまった。その経緯がガバナンスの観点で極めて問題だと確信するにつれて、瀬戸氏は疑念と反発を強めていく。

 その頃、機関投資家たちも動き出していた。12月、会社側は機関投資家向けの説明会を開催したが、納得しない海外の機関投資家が相次いで説明責任を果たすように要求。2019年1月には世界最大級の投資家である米ブラックロックが、突然のトップ交代や、指名委員でもあった潮田氏、山梨氏がそれぞれCEO、COOに就任したことの利益相反の可能性などについて説明を求める書簡を送り付けた。

 LIXILの実質的な最大株主からの突き上げに、会社側に緊張が走った。さらに追い打ちをかけたのが、英マラソン・アセット・マネジメントら英米機関投資家4社の投資家連合の動きだ。

 3月20日、英マラソンらは潮田氏、山梨氏の取締役からの解任を議案とする臨時株主総会の招集請求を会社側に送付。共同提案者には、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)から年金資産の運用を受託している米タイヨウ・パシフィック・パートナーズの名前もあった。普段は表に出て会社と対決することがない穏健な長期投資家たちからも「ノー」を突き付けられた。

 瀬戸氏が退任してからLIXILの株価は年末までに2割以上下落し、ガバナンスを巡る問題が企業価値を大きく毀損したことを問題視した。「この状態を放置しては資金の出し手に説明がつかない」(マラソンの高野雅永氏)との危機感が、彼らを突き動かした。

 ただ、請求するにもLIXIL株の3%以上の所有が必要だ。機関投資家4社が集まっても、足りない。どうするか。

 マラソンの高野氏は愛知県常滑市に足を運んだ。旧トステムと並ぶもう一つの前身企業、旧INAXの創業の地である。面談の相手はLIXILの現任取締役で、旧INAX創業家の伊奈啓一郎氏。投資家連合が当てにしたのは、伊奈一族と伊奈家が株式を寄贈した常滑市が保有するLIXIL株だった。

 伊奈氏は、同じく旧INAX出身で元社長の川本隆一氏と共に、瀬戸氏解任を決めた取締役会では反対票を投じていた。その後も、今回の瀬戸氏解任の経緯について異議を唱えてきたが、「常に多数決で負けてきた」という思いがある。投資家連合からの誘いに乗った。

日経ビジネス2019年6月17日号 28~33ページより