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名経営者ですら、一つ間違えば株主からの信頼を失う。「ESG」など多様化する株主の価値観に、会社はどう向き合ったらいいのか。社長を正しく辞めさせられるか。透明性のある意思決定プロセスがすべての基本だ。

 昨年12月末、欧州の名経営者として知られた英蘭ユニリーバのCEO(最高経営責任者)が退任した。ポール・ポールマン氏。2009年に就任して以来、同社の企業価値を大きく高めてきた。

英蘭ユニリーバの前CEO、ポール・ポールマン氏は名経営者として知られたが、最後は投資家と本社移転計画を巡り衝突した(写真=2点:ロイター/アフロ)

 ポールマン氏を名経営者と言わしめたのは、CEO就任後に業績の四半期決算をやめるなど、それまで欧米企業を覆っていた短期的な利益を追う経営姿勢を明確に否定しながらも、業績をしっかりと拡大させてきたところにある。09年12月期に1.16ユーロ(約140円)だった1株当たりの利益は18年12月期には3.48ユーロまで増やしている。

 20年までに企業活動による環境負荷半減を目指す「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」と名付けた長期目標を掲げるなど、持続的な成長を目指したポールマン氏。内外にその揺るぎない経営姿勢を見せつけたのが、17年に米食品大手クラフト・ハインツから敵対的買収を仕掛けられた時だ。提示された買収額は約16兆円。この提案をポールマン氏ははねのけた。

 クラフト・ハインツの背後にいたのはビール業界などで大型買収を仕掛けることで巨額の利益を稼いできたブラジルの投資会社3Gキャピタルだった。

 「長期的でサステナブルなビジネスモデルと株主至上主義の衝突」

 ポールマン氏は英フィナンシャル・タイムズにこう語っている。

 ポールマン氏が「死にそうだった」と語るほどの試練を乗り切ったが、ユニリーバの株主はその後もポールマン氏を支持した。株価もこの騒動の後でも大きく下がっていない。

 にもかかわらずCEOを退任した。就任してからちょうど10年と言う区切りもあろう。だが、周囲はそれだけが理由とは見なかった。ポールマン氏のある試みが「株主と経営者の信頼関係を傷つけた」と株主から受け止められていたからだ。

 その試みとは、本社移転。ユニリーバは歴史的に英国とオランダに2つの本社があったが、ポールマン氏はそれをオランダに統合しようとした。会社側は経営効率を高めるためと説明したが、投資家はそれだけが理由とは思わなかった。敵対的買収にさらされにくいオランダに本社を移すことで、買収リスクから逃れようとしている。そう見たのだ。

日経ビジネス2019年6月17日号 40~43ページより