AIをイノベーションにつなげるためにも、組織や人材のあり方の見直しが不可欠だ。時に暴走すらするAIをどう活用しているのか、企業には説明責任が求められる。人間の価値観や姿勢が反映されるAI。使いこなす企業の真の実力が問われる。

多くの日本企業がAIの導入に踏み切れなかったり、実証実験で立ち止まったりしているなか、次々に実用化している企業がある。大手損保会社SOMPOホールディングス傘下の損害保険ジャパン日本興亜だ。
2018年の1年間、同社が手掛けたAIやIT活用の実証実験は55件。そのうち11件が実運用に移行した。注目すべきは、その一方で途中でストップした実験が20件ある点だ。
「実験で費用対効果や現場への浸透度などの面で結果が出たら実運用に向けた開発に移行する。反対に、難しいと判断したらやめることが肝心だ」。SOMPOホールディングスでデータ戦略統括を務める中林紀彦チーフ・データサイエンティストはこう話す。
丸投げせず自ら目利き
業務のどこにAIを導入するのが効果的なのか。本当にAIが必要なのか。システム開発会社やコンサルティング会社に丸投げするのではなく、自ら判断するにはビジネスと先端技術の両方を知る必要がある。
●損保ジャパン日本興亜の実証実験の流れ

「目利き役」となっているのが、16年4月に設立したデジタル戦略部だ。同部が通常のIT部門と違うのは、実証実験の予算を握っている点。権限が一元化され、社内の手続きが明確になったことで、各事業部門は自らの課題を解決するAI活用プロジェクトを提案しやすくなったという。実験はおおむね3カ月単位で点検し、実運用まで進めるか入念にチェックする。
実験を経て正式導入が決まれば、その後の開発予算は各事業部が受け持つ。費用が当初の予算を上回っても、実験段階で費用対効果をある程度クリアにしていることもあり、期中であっても新たな予算が通りやすいという。

18年に実用化された事例の一つが全国300拠点、合計1万席のコールセンターに導入された音声認識システムだ。通話内容をAIで分析してリアルタイムに最適な回答候補を表示するものだ。
この技術をベースに、19年度中に顧客が電話対応のどの部分に満足したのかを推定し、それを基にリアルタイムに指示を出すAIも開発を始める予定だ。
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