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 開発の最前線では何が起こっているのか。「我が社もAIを導入したい」という相談を日々受けているIT(情報技術)の専門家に集まってもらった。経営の視点から助言するコンサルタントC氏(40代男性)、システム開発を手掛けるシステムエンジニアE氏(30代男性)、先端技術を持つAIスタートアップ企業の営業S氏(20代女性)。3人の本音から浮かび上がるのは、手段と目的を履き違えた企業の悲喜劇だ。

企業の担当者はまずどのような動機で皆さんの下に相談しに来ることが多いのでしょうか。

C氏(コンサルタント) 私のところには、社長からAIを導入するよう指示された経営企画部門の方などが来ます。「AIの技術水準はまだ未熟で、5~10年間は先行投資になるし、画像認識や音声認識でしか使い物にならない。御社の業務で活用できる分野は限られるのではないですか」と伝えると、「え、そうなの」という顔で帰っていく。

 そして後日、「社長から『検討の仕方が悪い』と叱られた」と言ってまた相談に来ます。AIは何でも解決してくれる「ドラえもん」のような機械ではないことを、まず社長自身が理解していただかないといけません。

E氏(エンジニア) 私の場合は、ライバル企業の発表をうのみにした経営企画部門や新規事業開発部門の方が相談に来ることが多いですね。

 例えばライバル企業が「AIによるブランド品の真贋判定に成功した」と発表し、新聞にも載ります。そうすると「我が社もやらねば」となる。しかし発表文をよく読むと、実際にシステムは完成しておらず、「部分的にAIを試しに使ってみた」ことをもって「成功」と発表していたりします。予算を取って実験に取り組んだ手前、社内的にも「成功」と発表せざるを得ないのでしょう。

 それを見て、実用に耐えるすごいAIがすでに存在すると勘違いするようです。こうしたケースでは社長が生半可にAIを巡る業界の動向を勉強しているだけに、タチが悪い。

それ、AIでなくてもできますけど…

S氏(スタートアップ) 私のところにも、「当社もAIを使った」とアピールしたいだけの会社から相談が寄せられます。面談すると、「AIで業務を効率化したい」などともっともらしいことを言いますが、よくよく話を聞くと、単にAIを活用した実績だけが欲しいのだなと分かります。「すぐに使えるAIが欲しい」などと要求してきます。

AIありきで相談に来るんですね。

E氏 AIの活用が社長から与えられたミッションになっているから、相談者はAIでなくとも解決できる課題を「AIで解決してほしい」と言ってきます。

 例えばAIによる営業支援です。ある会社が手掛けるオフィスの引っ越し作業は、組織改編や人事異動があるタイミングで引き合いが増えます。会社ごとにタイミングをAIで把握し、その時期が近づくと営業に行くようAIから指示を出せれば、受注率が高まるとクライアントは期待していました。

 そんなことは過去の実績データをちゃんと管理していれば分かることで、わざわざ投資してAIに任せるような業務ではありません。顧客からの注文メールの中身を解析して、自動で見積書を作成するAIを開発してほしいという依頼もありました。これも必要な個数やスペックを選択させる注文サイトに顧客を誘導すればいいだけの話です。それでも諦めずに「やっぱりAIが使いたい」などと言ってきます。

日経ビジネス2019年5月20日号 34~35ページより