「〇〇社、××事業にAI導入」。多くの企業が次々に発表し、連日ニュースの見出しを飾る。問題はその先。実証実験で止まったまま、ビジネス活用に至らないケースは多い。先行企業の実例から、AIの導入で陥りがちな「失敗の法則」を紹介する。

ソフトバンクが社内に千数百人いる営業員をAIで支援するシステム「ソフトバンクブレーン」を導入してから3年。AI・ロボティクス事業推進部の柴谷幸伸課長は「開発当初、AIは何でもできるという妄想に取りつかれていた」と振り返る。「経営層から現場までAIで盛り上がっていた」(柴谷氏)という熱気の中で完成したシステムは、理想とかけ離れたものだった。
「AIは万能」という勘違いはソフトバンクに限らず産業界に蔓延している。実際には音声や画像認識など限られた分野で実用に耐えるAIが視野に入ってきたという段階。有効な学習データがそろわなければ十分な性能は出ない。
IT業界からは「メガバンクが多額を投じてコールセンターに導入した対話型AIが使い物にならなかった」「医療機関が試験導入したAIが間違った治療法の提案を繰り返した」といった失敗談が聞こえてくる。
グループの投資ファンドを通じて世界中の先端企業に投資し、AI分野では優等生ともされるソフトバンクはなぜ失敗したのか。
営業成績底上げを期待したが
ソフトバンクが想定していたのは、エース級の営業員のように振る舞う、自然言語処理による対話型AIだ。一般の営業員が専用のアプリを搭載したスマートフォンに向かって自由に質問すれば幅広い問題について深い洞察に基づきアドバイスを返すAIを目指した。
営業員が「銀行にIT機器の導入を提案したのだけど、『予算が削られて無理』と言われた」などと語りかければ、客先の業種や予算、過去の実績などから「予算の削減に取り組む金融機関は人手不足の解消につながる提案が効果的です。人型ロボット『ペッパー』を受付に導入するよう勧めてはどうでしょう」などと臨機応変に助言する。

「ペッパーをお客様に気に入ってもらう秘訣は?」と追加で質問すると、「実際に動いているところをデモンストレーションで見せると契約につながりやすい」などと回答し、客先の担当者へのアプローチ法をより詳しく教えてくれる。営業成績の底上げに期待した。
しかし現実は違った。AIは「ペッパーの導入を提案してみましょう」など、誰でも思い付くような回答を繰り返すばかり。どうすればペッパーを効果的に売り込めるかといった、状況に応じた具体的なアドバイスまでは踏み込めなかった。柴谷氏は「回答が浅いため、ソフトバンクブレーンは社内でほとんど利用されなかった」と話す。
ソフトバンクの営業部門で扱う製品やサービスはペッパーのほかにも、法人向けスマホやクラウドなど、2500件に及ぶ。AIの開発段階ではこれらすべての商材について、どんな質問にも回答できる万能型を目指した。
AIに尋ねたいことを営業員から事前に聞き取り、エース級の営業員から集めた回答例をAIに学習させればシステムは完成すると考えていた。
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